雲助は、この噺をさながら圓朝作品のごとく重厚に演じた。クライマックス、お熊の横綱土俵入りでの夢之丞による口上の見事さはさすが雲助。切ない余韻を残す名演だ。
仲入り後は女流講談師神田鯉栄による『任侠流山動物園』。上野のパンダと談判しに行った豚次がトラに尻を囓られるところまで演じ、流山動物園から上野まで牛太郎一行が駆け付けるくだりを講談ならではの言い立てで。「果たして豚次の運命やいかに……お時間です」
トリは桃月庵白酒で『メルヘンもう半分』。古典『もう半分』の改作で、白鳥版はアニメで有名なフィンランド由来の“夢の国の住民”が主役だが、白酒版は国民的人気の猫型ロボットが主役。夫婦揃って悪党という雲助の『もう半分』を土台にして、白鳥版の感動のエンディングとはまた異なるハッピーエンドで「白鳥座」を締めくくった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2020年1月3・10日号