高齢化が進む日本社会。いかに健康的に高齢期を過ごしていくかが重要になっている。いわば、“若返り”が求められる中、最新の医療技術にも注目が集まるが、一方で新たな医療技術を用いなくても、私たちの体を形成する細胞は若返りをかなえることができるかもしれない。
2017年にNHKの情報番組『クローズアップ現代+』で特集されたことをきっかけに注目を集める「テロメア」という物質名を聞いたことがある人もいるだろう。銀座ソラリアクリニック特別顧問で医学博士の古賀祥嗣さんはこう話す。
「細胞の中には『核』と呼ばれる部屋があり、核の中に染色体があります。テロメアは染色体の末端部分のことで、染色体がほつれたり、互いにくっついたりするのを防ぐ“キャップ”のような役割を果たしています」
若い細胞は分裂によって新陳代謝を繰り返し、機能が低下した古い細胞を除去している。しかし、細胞分裂には上限があり、その回数を決めるのがテロメアだ。
テロメアは細胞分裂のたびに短くなり、ある一定の短さに達すると細胞分裂が不可能な「細胞老化」という状態になってしまう。そのことからテロメアは「命の回数券」とも呼ばれ、テロメアを「伸ばす」ことが老化予防になるとされている。京都大学大学院生命科学研究科教授の石川冬木さんが解説する。
「生まれつき、テロメアが比較的長い人と短い人がいることもわかっています。研究者の中には、生まれ持ったテロメアの長さが寿命と関係していると提唱している人もいます」
米カリフォルニア大学のエリザベス・ブラックバーン博士は、テロメアとテロメラーゼ酵素の仕組みを発見し、2009年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。テロメラーゼは、テロメアが短くなるのを遅らせるだけでなく、短くなったテロメアを伸ばす作用もあるとわかっており、世界中の専門家たちが研究を行っている。
その研究結果から見えてきたことは、日常生活の中でテロメラーゼを増やし、テロメアを伸ばすことが可能であるということだ。
「ブラックバーン博士の著書では、さまざまな研究結果が引用され、食事や睡眠、有酸素運動、さらにマインドフルネス(瞑想)がテロメアを伸ばすことに効果的だとまとめられています」(古賀さん)
最先端の治療を受けたりせず、普段の生活で可能だというから驚きだ。
ただし、これらの研究結果は、あくまで仮説の段階だと石川さんは話す。