年末年始はゆっくり腰を据えて本を読む絶好の機会。2020年は果たしてどんな年になるのか? 精神科医の香山リカ氏が選んだ2020年を読み解く1冊は、『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』だ。
●『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』/木澤佐登志・著/星海社新書/960円+税
昭和世代の私は、理系学生だったが哲学の本もかじっていた。当時はみなそうだった。ヘーゲルやニーチェ、サルトル、フーコーなどの名前を知ってるのがカッコよかったのだ。
あれから40年。いまも哲学好きの若者はいる。しかし、彼らは恐ろしい状況に置かれている。弱肉強食のグローバル経済と技術革新の中で格差は拡大し、理性、啓蒙、平等、民主主義といった近代の柱であった概念は形骸化している(トランプ大統領の誕生がそれを象徴している)。そこから生まれたのが、近代の“きれいごと”に踵を返す新反動主義や資本主義の流れを究極まで推し進める加速主義という潮流だという。
若き鬼才の著者は、ここに至る思想の流れを現実の社会のできごとと結びつけながら、実に手際よくわかりやすくまとめる。真っ黒な装丁も奇抜で若者向けの本に見えるが、上の世代も無理なく読めるはずだ。「なるほど、私が知っていたあの哲学の世界はその後こうなっていったのか」と視界がひらけていく。