父親が亡くなり認知症の母親(85才)を介護することになったN記者(55才・女性)。母親のサ高住の引越しを機に、両親の住んだマンションの片付けをするもその大変さたるや…! 地獄のような廃棄作業が待っていたという。
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5年前、認知症の母をサ高住に移し、両親が住んだマンションの後片付けを引き受けたのだが、それは50年余りの私の人生において屈指のつらい作業だった。実際、廃棄業者に引き渡すまでの約2か月間で、5kgも体重が減ったのだ。
両親が後生大事にため込んだ大量の物。家庭ゴミにしたりリサイクルに出したりして量を減らせば、業者に払う費用が節約できるという希望はあったものの、“親の物を捨てるストレス”は凄絶だった。
母が新生活で使う服や物はすでにサ高住に運んだ後なので、冷静に考えれば目をつぶって丸ごと業者任せでもよかったのだ。そうやって親の家の片付けをサクッと済ませ、自分の生活に戻った友人もいた。
でも母の認知症対応でほとほと疲れていた私は、“親の物”の情念にでも取り憑かれたのだろうか。ゴミ袋で捨てられる物を集める一方で、まだ生かせそうな品々の行く先を必死に探し始めた。
まず服はリサイクル業者に。大型段ボールに4箱、計100kg。壁を埋め尽くしていた本やピアノ、ゴルフ道具はネットで探した業者に引き取ってもらい、無名作家の絵画や壺などは、母のデイサービス事業所に飾ってもらったりもした。
長年使い込んだ品々はほとんどお金にならなかったが、奔走の甲斐あって、廃棄業者の見積もりからトラック1台分を減らし、6万円の節約。でもなぜか気持ちは晴れず、大きなため息が出た。
この片付けで、どうしても捨てられなかったのが写真だ。整理されていない状態で段ボール1箱分もある。
行き場がないのでしかたなく、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)の母のクローゼットに押し込み、すっかり忘れていたのだが、最近ふとその箱を開けてみた。セピア色のひと際古い一枚を手に取ると、セーラー服の女子高生らしき一群。その中で妙に親しみのある丸顔がすぐ目に留まった。母だ!
「ねぇ! この三つ編みの子、ママじゃない!?」
母に目をやると85才の老婆。でも紛れもなく同じ丸顔だ。三つ編みの母は15、16才だろうから約70年の差だ。