出演者交代の影響で放送開始日が1月19日に延びるなど、波乱含みのスタートとなった2020年のNHK大河ドラマ。その陰でひそかに繰り広げられる争いについて、歴史作家の島崎晋氏が解説する。
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NHKの大河ドラマを巡っては必ず、表面にはあまり出ることのない誘致合戦が展開されている。観光客の増加と経済効果を期待して、全国の自治体が“地元ゆかりの人物”を推す活動に熱心だからだ。
どの時代の誰を主人公にするかが公表されると、今度は“ゆかりの地”同士の争いが開始される。今年の『麒麟がくる』の場合、長谷川博己演じる主人公・明智光秀の出生地が特定できていないこともあって、観光客の取り込み合戦が熾烈化している。
明智光秀は織田信長を討った人物として歴史に名を残したが、知名度の高さとは対照的に、その前半生は謎のベールに包まれている。生まれた年からして1528年とされながら確証はなく、父親の名前についても明智光隆、光国、光綱、進士信周(しんしのぶあき)などいくつもの候補が挙げられている。進士信周とする説では、信周の妻の兄・明智光隆が病弱で跡継ぎがいなかったことから、光秀が養子として迎えられたとされている。
出生地についても諸説あり、岐阜県可児市瀬田や同じく恵那市明智町、山県市美山町、大垣市上石津町など、旧美濃国内だけでも複数の候補地がある。恵那市と可児市及び県庁所在地である岐阜市の3市にはそれぞれ「大河館」も設置され、あとは放送が始まり、観光客がやってくるのを待つばかりの状態にあるが、果たして『麒麟がくる』では出生地をどことして描くのか。