ネットで「敬老パス」と検索のために入力すると、続けて「廃止」という言葉がすすめられてくる。高齢者が公共交通機関を無料、もしくは特別割引で利用できる通行証であることから「敬老パス」と呼ばれることが多いこの制度は、全国の様々な自治体で導入されてきた。しかし、最近は高齢者数の増加に伴い自治体や運行事業者の負担が大きくなり、パスのあり方が曲がり角にきている。見直しをすすめる横浜市と名古屋市の取り組みについて、ライターの小川裕夫氏がレポートする。
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2019年に誕生した新生児が、90万人を下回った。政府の試算を上回るペースで人口減少が進んでいることが、大きな波紋を呼んでいる。人口減少は危惧すべき話だが、それ以上に政府・地方自治体を悩ませているのが高齢化率の上昇だ。
高齢化率が上昇すれば、国民一人が負担する社会保障費は増大し、それが現役世代を苦しめる。現役世代の可処分所得が減少すれば景気は減退する。日本経済が揺らぐ一因にもなる。
一方、年金だけでは生活ができない、いわゆる下流老人も増えている。そのため、70歳を超えても生活費のために働く高齢者は珍しくなった。
いずれにしても、かつての悠々自適な生活を送るという高齢者像は大きく崩れた。高齢者を取り巻く環境は一変し、地方自治体はそうした環境の変化に対応を苦慮している。
地方自治体は、高齢者の生活支援の一助として、バスや鉄道など利用できる敬老パスを配布している。自治体によって敬老パスの名称や対象年齢、乗車できる路線、料金などは細かく異なるが、一般的に敬老パスを使えば割安な料金で鉄道やバスを利用することが可能だ。
高齢者が敬老パスを使って鉄道やバスに乗車した場合、その利用料は自治体が助成金といった形で鉄道、バス会社に支払っている。市町村が各鉄道会社・バス事業者に支給する助成金は、各年度で予算化している。つまり、高齢者がたくさん鉄道やバスを利用しても、自治体が支払う助成金は変わらない。緊急措置的に、自治体が臨時予算をたてて助成金に追加資金を投入することはない。不足分は事業者が負担しているのだ。それでも財政的な面から、敬老パスの見直しを進める自治体がいくつか出てきている。
「横浜市では敬老パスを敬老特別乗車証と呼びますが、同制度は1974年に開始されました。対象は70歳以上の横浜市民ですが、制度開始当時は約7万人が利用対象者でした。現在は、約40万人が利用しています」と話すのは、横浜市健康福祉局高齢健康福祉部高齢健康福祉課の担当者だ。
横浜市の敬老パスは、所得に応じて年額0円~2万500円まで8段階の負担金額が設定されている。敬老パスでは横浜市営地下鉄、横浜市営バスおよび市内を走る民間バス事業者10社、金沢シーサイドラインなどを利用できる。
また、横浜市営地下鉄の湘南台駅は藤沢市に立地しているほか、市バスは隣接する川崎市の境にも走っている。そうした事情から、鉄道・バスともに乗車地・降車地のどちらかが横浜市内であれば敬老パスを利用できるシようになっている。