観光にイベントに、SL(蒸気機関車)が人気だ。乗車するのも、走る様子を見るのも人気で、SLを走らせたいと願う地域は少なくない。ところが年々、SLを実際に走らせることはもちろん、車両の保存も難しくなっている現実がある。北九州市が若松駅前に展示してきたSLのメンテナンス継続が難しくなったため、譲渡先を2019年12月25日まで公募していたことも話題になった。継続して保存してくれる先は見つかったのか、全国でSLの保存はどのような状況にあるのか、ライターの小川裕夫氏がレポートする。
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全国各地を走っていたSLは、昭和40年代から鉄道の電化が進められたことによって姿を消した。鉄道ファンではなくても、SLを懐かしむ人は少なくない。そのため、観光の目玉としてローカル線ではSLが頻繁に運行されてきた。
SLを観光の目玉にする先鞭をつけたのは、静岡県の大井川鉄道と山口県の山口線だ。大井川鉄道は1976年に、山口線は1979年にSLの運転を開始。これらの成功を受け、各地でもSL運転が相次ぐ。
近年、東武鉄道がSL運転を始めたり、若桜鉄道がピンク色のSLを運行するなど、SLは依然として根強い人気を保っていると思われていた。しかし、そうした人気とは裏腹にSLは水面下で危機を迎えている。
昭和40年代から50年代にかけて、多くのSLは役目を終えた。引退したSLの多くは処分されたが、博物館や自治体、愛好家たちが結成した保存会などに引き取られたSLもあった。引き取られたSLは、博物館や公園などに保存・展示された。処分を免れて幸せな余生を送っていたはずだったが、歳月の経過とともに問題が浮上する。
九州鉄道記念館がある福岡県北九州市は、鉄道の街という歴史を有する。市内の若松駅前にある久岐の浜広場には、旧国鉄から貸与されたSLが保存・展示されていた。石炭産業で栄えた北九州市は、石炭輸送に活躍したSLを保存・展示することで郷土史を伝える役割を果たしていた。しかし、メンテナンスの手が回らず、老朽化が目立つ状態になっていた。このほど、市は保存・展示を諦めて譲渡することを決定した。
「先だって譲渡先を公募していましたが、申し込み締め切り期限の12月25日までに県内から1者、県外から1者、合計2者から申し込みがありました」と話すのは北九州市若松区まちづくり整備課の担当者だ。