養育費は最初のうちは払っていたが、そのうち払わなくなり、元妻、子どもと連絡がとれなくなって結局、払わなくて済んで助かったとのことだ。竹下さんによれば出来ちゃったや早婚のあげく離婚する仲間は多いが、誰も養育費なんてものは払っていないという。
「偉い弁護士さんとか頭のいい人がガタガタ言ったって、別に刑務所入れられるわけじゃないし、そいつらが俺たちをシメに来るわけじゃないし」
40歳を過ぎても元ヤンは元ヤンだ。更正した者もいるだろうが、基本的なやんちゃぶりが変わらないのは私も生まれ故郷で実感する。都会の頭のいい人や偉い人が何を言ったって、地元で彼らは法を犯さない限り無敵だし、元ヤン気質こそが田舎で生き延びる道だったりもする。PTAでも子供会でも自営業の元ヤンが仕切り、土地を離れない限りは一生地域カーストの上位に位置する。竹下さんの土地では団塊ジュニアの中高不良文化がそのまま残っている。
「東京で失敗したのか知らないけど、最近は地元に戻ってくる奴もいる。でも一度出てった奴なんか誰も相手にしないね。だいたい学歴だけの頭でっかちだし、キモいオタクだったりするし」
そう得意げに言ってのける竹下さんだが、いま自身の生活が危ういという。
「親のプロパン屋を継いだんだ。親父が急死したんで、母親ひとりじゃ廃業しかない。親孝行のつもりで継いだのに、借金はあるし全然稼げてない、契約戸数も150くらい」
竹下さんは実家に暮らしていたのに実情を知らなかったそうだ。老夫婦だけならなんとかやれるくらいの規模で、配送だけ委託、その他の検針や簡単な修理、保全は親父さん一人でやっていた。プロパンガスの採算は地域や価格、契約内容でまちまちだが150戸では厳しいだろう。
「それに親父が死んで俺が後を継いだ途端に契約解除しはじめる家が出てきた。親父との義理で契約してただけで、もっと安いとこに切り替えるってんだ。でも供給会社の卸値だって上がってるし配送コストもバカにならない。第二種販売主任者とか保安業務員なんて資格は俺でも取れたけど、肝心のお客が減る一方じゃどうにもならない。このままだと廃業だよ」
竹下さんは実家を手伝うことはあったが、基本的にガソリンスタンドの社員だったり、退職後は地元の小さな整備工場で働き、3級自動車整備士の資格を取って大手カー用品店の契約整備士をしていた。気ままな実家暮らしで車に金をつぎ込み、女の子と遊んで40歳を過ぎた。そして実家を継いだが、名ばかりの代表取締役で母が専務の典型的な三ちゃん営業(※とうちゃん、かあちゃん、にいちゃんの三ちゃん)ならぬ二ちゃん営業で、頼みの地元の元ヤンキー仲間も仕事となるとシビアな対応だ。
「いっそ会社を潰して楽になりたいけど、地元金融機関からの融資がまだ残ってる。自動的に俺が会社の保証人なんでほんとに騙されたよ。おふくろは潰したくないと言うし、八方塞がりだ」
営業努力でどうにかなるものでもないと竹下さんは言う。実際そうだろう。オール電化や都市ガスの整備、ガスの自由化による競争激化は個人の努力の問題ではない。ウォーターサーバーなど多角化しても都市部と違い、田舎の反応はイマイチだ。