木村拓哉は日本においてその作品動向が最も注目される俳優のひとりであると同時に、常に失敗が許されない立場を求められる。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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年末、電車の中でもテレビ画面でも、妙に頬がこけ白髪で濃いサングラス姿の中年男性の不気味な顔が目に飛び込んできた。これがキムタク? 警察学校の鬼教官をキムタクが演じるという衝撃的なSPドラマ『教場』(フジテレビ系)の番宣でした。
年末年始といえばまさに「キムタク祭り」の様相で、天才シェフ・尾花夏樹役が話題となったドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)は29日の最終回の視聴率が16.4%。まずは成功と言える着地ぶりで、続編を期待する声も聞かれました。
続けて、年が開けると3日に映画『マスカレード・ホテル』の地上波放送。フジテレビとしてはその勢いを保ったまま、視聴者に『教場』へとなだれこんで来てほしい、という願望ありあり。そんな「キムタク祭り」の作戦にのって騒ぐのには多少抵抗感があった人もいたはずです。
という状況下、1月4日、5日2夜連続で放送されたスペシャルドラマ『教場』。木村さんは適正の無い人間を容赦なくふるい落とす鬼教官・風間公親として、異形の風貌で登場してきました。
案の定、登場してしばらくの間は、何とも居心地の悪い浮遊感が漂っていた。「鬼」と呼ぶにはドス黒い迫力が欠けている印象か。セリフにキムタク節の抑揚やクセもちらり感じられたりして、鬼教官よりも「木村拓哉」が前面に出てくるのかどうか、視聴者としてはとまどいつつ見ていました。
しかし。物語が展開していくにつれて、「鬼教官」としてのキャラクターがしっかりと立ち上がってきたのです。
静かで落ち着きのある怖さ、何を考えているのかわからない不気味さ、メガネの奥にのぞく瞳の不自然さ、ピクリとも動かない顔の筋肉。鬼教官・風間の暗さと凄まじい集中力とが、見ている人をぐいぐいと惹き付けて最後まで離しませんでした。
もうこの人を、「キムタク」とか軽々しく呼んではいけないのかもしれない。「何をやってもキムタク」という言葉を封印すべき時がきたのかと感じさせるほど、役者としての決意が伝わってきたのです。
世の中、ファンと同じくらい突っ込みを入れようと待ち受けている辛口視聴者がたくさんいます。そうした人々を前にして、演技で説得しねじ伏せるのは、並大抵のことではない。その意味で正統派役者・木村拓哉の誕生の夜、だったのではないでしょうか。