映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・三田村邦彦が、大人気となった『必殺』シリーズ(テレビ朝日系)の飾り職人の秀役、『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)ジプシー刑事など、寝る時間が移動中だけだった時代を振り返り、蜷川幸雄の舞台に出演したり、コメディにも挑戦したころについて語った言葉をお届けする。
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三田村邦彦は一九八二年から人気刑事ドラマ『太陽にほえろ!』に出演、通称「ジプシー」刑事を演じた。
「あの頃は『必殺』もやっていたので、台本を七冊くらい抱えていて。全て中途半端でした。
『必殺』でも出るシーンが秀の家で簪をコンコンしているのと全員が集まるのと、あと殺し。『太陽』でも七曲署内と聞き込み。もう芝居をやっている実感がなくなってきていました。
それで『太陽』を降りようとプロデューサーに言ったら『うちはいつでも待ってるから』ということで殉職ではなく転属という扱いにしてもらいました」
八五年、劇団青俳の先輩でもある蜷川幸雄が演出した舞台『恐怖時代』に出演した。
「そんな時に『お前さ、舞台やらないとダメだよ』って蜷川さんに言われたんです。そうなんですよね。俺、舞台が好きで劇団に入ったのに、舞台をやれてないんですよ。『必殺』を六年半でやめたのは、そういうことです。ここで舞台をやらないと、本当にダメになると思いました。
台本を抱えて時間の余裕もなくて、寝る時間が新幹線の中──という時期がありましたから、『恐怖時代』をさせていただいた時は『ああ、これだ。帰ってきた』と思いましたね。とっても面白かった。
蜷川さんは感情を前面に出すようにとよく言います。それが上手くできない時は『怒鳴れ!』と。たとえば悲しい感情を表現する時、セリフに感情が乗ってないと上辺だけになる。そんな時は『悲しいよ!』と怒鳴れ、と。そうすると、中途半端に言っているよりも何か届いたりするんですよね。ですから、いくら稽古しても上手くいかなくて本番に間に合わない時は、『もういい、怒鳴れ!』『叫べ!』って。それが蜷川さんの教え方でした。
ですから、蜷川さんの芝居を見ていて怒鳴っている俳優さんを見ると『ああ、できなかったんだな──』って分かります」