迷走する文部科学省主導の「大学入試改革」につきあっていては、日本の大学入試制度は混乱するだけで何も得られない。教育の質を高めるには、どのような入試制度が望ましいのか、経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。
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現在の大学入試制度で、何よりも許しがたいのは私立大学の「指定校推薦入試」や「付属校推薦入試」だ。これほど入試をおかしくしているものはない。早々と推薦入学が決まった生徒は、たいていその時点から勉強しなくなる。その結果、高校3年間で学んでいるはずの内容を全く理解していないので、大学の理系学部などでは数学の基礎が弱くて授業ができず、補習から始めなければならないという事態になっている。入試改革というなら、推薦入試は即刻廃止すべきだ。
そもそも日本の大学教育は、高校における文系・理系の選択が早いこともあって、オールラウンドに活躍できる人材が育ちにくい。幅広い教養と論理的思考力を身につけるリベラルアーツ教育も極めて貧弱だ。このため、関心分野が偏ったバランスの悪い人間が出てきてしまう。シンガポールや北欧系の教育システムでは「STEAM(スティーム)」と呼ばれる科学、技術、工学、芸術、数学が21世紀には必須ということで、この5領域を重視する新しい教育体系にシフトしている。
また、以前から述べているように、日本で人気が急上昇している「国際バカロレア(IB)」では「セオリー・オブ・シンキング(思考の理論)」を最も重視する。これは単に覚えた知識から答えを出すのではなく、自分の頭でゼロから証拠を集めて組み立て、論理的に問題を解決する能力で、「発想学」とも呼ばれている。欧米先進国の学校ではEQ(心の知能指数)を必要とするリーダーシップ教育にも力を注いでいる。かたや日本には、そういう科目が高校までの教育にも大学教育にもほとんど見られない。