これまで富裕層のステータスとして憧れの住形態でもあったタワーマンションだが、昨年は武蔵小杉のタワマンが台風による浸水被害に遭ったように、思わぬ脆弱性も露呈した。新興の湾岸エリアなど地盤の弱い場所に多く聳えるタワマンは、果たしてこのまま資産価値を保つことができるのか──。住宅ジャーナリストの榊淳司氏が2020年のタワマン市場を占う。
* * *
「タワーマンションの資産価値は今後、暴落しませんか?」
2019年の10月13日以降、私はこの手の質問を受け続けてきた。きっかけは、あの台風だ。10月12日から13日にかけて日本列島を襲った台風19号は、関東甲信越、東北地方を中心に甚大な被害をもたらした。亡くなった方、住む家を失った人はかなりの数に上る。
そして、神奈川県川崎市の武蔵小杉エリアにおいて内水氾濫で浸水被害を受けたタワーマンションに関して、かなりのボリュームで報じられたのは記憶に新しい。
台風通過直後から私のところには各種メディアから取材や原稿、出演の依頼が殺到した。彼らが私から聞きたいことは、ほぼ次の3点に集約された。
(1)タワマンは水害に弱いのか
(2)浸水被害を受けた武蔵小杉のタワマンや、同エリアのマンションの資産価値は今後下落するのか
(3)他のエリアでもタワマン自体の資産価値が暴落する恐れはあるか
約1か月弱の間、この3つの質問に答え続けた。
私は何よりも、命を奪われた方や家を失った被災者が多いにもかかわらず、電気と水道とトイレが使えなくなっただけで、命はもちろん家財にも目立った被害が出ていないタワマンやその住民たちの様子、そして今後の資産価値の動向などについて、そこまで報道する必要があるのか──と疑問に思い続けた。
しかし、メディアの向こうにいる視聴者や読者はそれを知りたがっていたようだ。一見華やかに見えるタワマンやその居住者が、想定外の被害を受けたことへの意外性が強かったのだろうと想像する。