中村喜四郎元建設相(70)は、出馬した選挙には一度も負けたことがなく、衆議院議員14期を重ねている。マスコミ嫌いとしても知られる中村が、25年の沈黙を破って語った『無敗の男 中村喜四郎 全告白』(常井健一著・文藝春秋)。15年間、中村の選挙取材を続けてきたフリーランスライターの畠山理仁氏が本書を読み、中村喜四郎という政治家の姿だけでなく、ノンフィクションライターとしての喜びと苦悩について綴った。
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中村喜四郎は多彩な異名を持つ政治家だ。
子ども時代のあだ名は頭が大きい容姿をとらえた「仮分数」。若くして政界で頭角を現すと「田中角栄最後の愛弟子」「戦後生まれ初の閣僚」「建設族のプリンス」という華々しい呼称で脚光を浴びた。
しかし、1994年にゼネコン汚職で逮捕されたことをきっかけに、中村を形容する言葉の色合いは一変する。
「刑事被告人」「沈黙の政治家」「元受刑者」。ネガティブで重苦しいイメージは中村や家族を苦しめた。それでも中村は捲土重来を期して選挙に出続け、すべての戦いで勝利をものにした。
現在までの戦績は14戦全勝。政見放送も比例復活もない無所属候補が、小選挙区で当選を重ねるのは異例中の異例だ。中村はいつしか「最強の無所属」「日本一選挙に強い男」「無敗の男」とも呼ばれるようになっていた。
そんな中村は近年、「野党共闘の鍵を握る男」として紹介される機会が増えた。雌伏の時を経て、再び政治の表舞台へと躍り出たのだ。晩年にさしかかった中村の「最後の脱皮」の様子は、本書最終章の「メーク・ナカムラ・グレート・アゲイン」で綴られている。
◆幾重にも重なる中村家三代の物語
中村がどんな人物であるかは本書を読めばわかる。いや、読まなければわからないと言ってもいい。25年間も沈黙を続けてきた政治家・中村喜四郎をここまで活写した書籍は、本書をおいて他に一冊もないからだ。