【著者に訊け】長嶋有氏/『俳句は入門できる』/790円+税/朝日新書
長嶋有は小説家である。と同時に俳人や漫画評論家や、一生活者でもあり、
「修行僧みたいに俳句だけ詠んで漂泊する俳人は現代では皆無に近いですし、大抵は他に職業や家庭があって、俳句以外の実人生も絶対にあるはずなんです。ところが俳句の世界には季語や切れ字について教えてくれる入門書はあっても、この『日常があって俳句がある』ということを臨場感をもって語った文章ってなかなかない。だから僕が普段どう俳句と接し、何に悩んでいるかとか、私事をただ語る余談の言葉にも結構意味があるんじゃないかなと思ったんです」
と語る。
それこそ『俳句は入門できる』ばかりか、〈他人とできる〉〈行使できる〉等々、五七五の制約より可能性に目を向ける本書は、俳句を取り巻く言葉や景色をより豊かにするために書かれた。
現在テレビ番組「NHK俳句」で選者も務める長嶋氏が、2014年に俳句同人「傍点」を立ち上げ、SNSを有効活用してきたのも、現代に相応しい俳句シーンを模索するため。だが、〈この世に傍点をふるように〉と自ら命名した同会を彼は本書を機に去るという。遊び心や発見に事欠かなかった場を、一体なぜ?