音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、明治座での舞台公演の原作にもなった、立川志の春の新作落語『阪田三吉物語』についてお届けする。
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1月7日から23日まで明治座で三山ひろしが初座長公演を行なう。演歌歌手としての「オンステージ」は第二部で、第一部は三山が主役を務める舞台「阪田三吉物語」。原作は立川志の春の新作落語だ。
志の春は2018年に語り芸の可能性を広げる実験的な会「志の春サーカス」を始め、シェイクスピアの『冬物語』の落語化や長唄とのコラボなどを行なってきた。『阪田三吉物語』はその第1回で「人物伝」をテーマに創作した噺。その後も何度か再演されているが、今回の明治座公演を前に大幅にバージョンアップされ、11月26日の新宿角座「志の春落語劇場」で披露された。
戯曲『王将』のモデルとなった天才棋士の波乱万丈の生涯を描く『阪田三吉物語』は1時間40分に及ぶ大作。これを志の春は前編・後編に分けて演じた。阪田三吉というと「破天荒な夫を支える女房」が印象的だが、志の春は関根金次郎とのライバル物語に焦点を絞ることで、新たな阪田三吉像を提示している。
まずは地の語りで江戸時代に幕府が「名人」制を定めたこと、それは一世一代の終身制だったこと、昭和10年代に十三世名人が自ら名人位を返上して今に至る「実力制」が始まったことに触れてから物語へ。これが終盤で大きな意味を持つ。