悪役として描かれることが多い明智光秀を主役に据えたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』がいよいよ始まった。裏切り者のイメージが強い光秀は、大河ドラマの主人公としてはふさわしくないとされてきた。だが、現代の視聴者に共感されやすいドラマを描く上で、光秀にはふさわしい側面があった。『東大教授がおしえる やばい日本史』などベストセラーを連発する歴史学者の本郷和人氏が、光秀の真実をわかりやすくレクチュアする。
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大河ドラマ『麒麟がくる』が始まりました。主役は明智光秀です。その影響もあって光秀は大ブームですね。僕のところにも「光秀について語ってくれ」という依頼が増えています。
織田信長を裏切った光秀は、石田三成と並んで時代劇では「永遠の敵役」です。大河の長い歴史の中でも光秀が主役になったのは初めてのこと。新味のある物語が少なくなっていくなかで、NHKもついに“禁じ手”を使ったということかもしれません。
『麒麟がくる』は、2週間ほどスタートがずれ込みました。美濃の有力大名・斎藤道三の娘で、後に信長の正室になる濃姫を演じるはずだった沢尻エリカさんに色々と問題があったせいで、川口春奈さんが代役になったからですね。
大河では、濃姫は光秀の「いとこ」だそうです。濃姫の母(道三の妻)は光秀の叔母にあたる「小見の方」となっており、これは司馬遼太郎先生の『国盗り物語』の設定を踏襲しているんですね。それなら確かに濃姫は重要な役どころです。
ただし、この血縁関係はあくまでフィクション。光秀の生涯、とくに前半生についてはほとんど解明されていません。生年月日さえ不明で、没年55歳(享禄元年生まれ)説と67歳(永正13年生まれ)説のどちらが正しいかすらわかっていない。