国内

伝統も古典も分からない保守派は何を保守しようというのか

評論家の呉智英氏

 日本古来の正月の祝い方、など近年「伝統」を枕詞に、その良さを見つめ直そうという訴えかけが目立つ。評論家の呉智英氏は、彼らが言う伝統とは、本当は“現代の流行”であることが多く、本来の意味を理解していないことが多いと指摘する。呉氏が、誤った伝統理解による保守主義に対して疑義を提示する。

 * * *
 近年保守派・保守主義が優勢になっているらしい。何を「保守」すべきかといえば、まず伝統だろう。しかし、伝統の意味を誤解していては話にならないし、昨日今日の流行を伝統だと思い込んでいては大恥だろう。ところが、現実にはそういう論者が多いのだ。

 保守系紙産経新聞に裏千家前家元の千玄室がコラムを連載している。一月十三日付では子供論・教育論を語っているのだが、これが何とも奇妙である。

 最近小学校の“騒音”への苦情が多いが、「本来子供は元気に走り回り声を出すものだ」とし、万葉歌人山上憶良の「銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも」を引用して「子供は社会全体で育て」るもの、とする。

 論旨は常識論であり、それはいいとして、ここに憶良の歌を引用するか。子供は社会の宝、国の宝だと言いたいらしいのだが、この歌はそういう意味なのだろうか。

 憶良の歌の前には詞書がある。

「至極の大聖すら、なほ子を愛したまふ心あり。況むや世間の蒼生、誰か子を愛さざらめや」(至上の大聖人釈尊でさえ、なお我が子への愛着に囚われている。まして世間の衆生は誰が我が子に愛着しないでいられようか)

 たいていの対訳本には、この「愛」は現代的意味の愛ではなく、我執、執着という否定的な意味だと注釈が付く。「子煩悩」は字義通り考えれば、子供は知恵の完成を煩わせ悩ませる存在だという意味になる。釈尊でさえ「子煩悩」なのだから、俺はうちの子が可愛くてしょうがないんだよ、誰だってそうだろ、というのが憶良の歌の主旨である。

 子供は社会の宝だの国の宝だのとは正反対の歌であり、そこが名歌たるゆえんなのだ。新元号「令和」の出典が万葉集だというので民族派は大喜びし、万葉ブームも到来しているらしいが、代表的な名歌さえ誤読されている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
「衆参W(ダブル)選挙」後の政局を予測(石破茂・首相/時事通信フォト)
【政界再編シミュレーション】今夏衆参ダブル選挙なら「自公参院過半数割れ、衆院は190~200議席」 石破首相は退陣で、自民は「連立相手を選ぶための総裁選」へ
週刊ポスト
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン