第26回「小学館ノンフィクション大賞」最終候補は、現代の論客に鋭く迫った意欲作からアメリカでの家族生活を軽妙に綴った手記まで5作品が出揃った。その中から大賞は、7年にわたり被災地に通い続けるドキュメンタリー監督の労作に決定。受賞作は今春にも刊行予定。
【受賞作品のあらすじ】
これほどの悲しみを、人はどう乗り越えて生きるのか──。舞台は、東日本大震災後の福島。物語の主人公は、南相馬市で津波にさらわれた我が子を捜しながら生きる上野敬幸さん(たかゆき・47歳)だ。自宅があった萱浜地区は、津波で集落の7割が流失。上野さんも両親と幼い2人の子どもの家族4人を津波で亡くした。その後、22キロ先の福島第一原発が爆発する。
「ずーっとおいてきぼりだ、ここは」。カメラに向かってつぶやく上野さんがいた。福島の津波被災地は、原発事故が起きたために世の中から目を向けられなくなったという。警察も自衛隊も来ない中、上野さんは避難を拒み、仲間と自力で捜索を続けた。泥の中から見つかった8歳の長女の遺体を自ら安置所に運び、3歳の長男や他の行方不明者を捜し続ける。
テレビ局に勤めていた著者は、ビデオカメラを手に休日に訪れた南相馬市で、偶然上野さんと出会った。以来、自宅のある名古屋から夜行バスとレンタカーで片道13時間以上かけて、毎月福島に通う。そして上野さんと妻、震災の年に生まれた次女の日常に寄り添っていく。
やがて上野さんは、第一原発から3キロの大熊町で、娘の捜索をする木村紀夫さんと出会う。木村さんの捜索を手伝ううち、原発周辺で行方不明者の捜索が十分に行なわれていないことに怒りを募らせる。そして5年9か月後、捜索に奇跡的な場面が訪れる。一方で上野さんは、原発事故の加害者である東京電力の社員たちとも、心を通わせていく。
「会社は憎いが、社員一人一人は別だ」と語る。そして南相馬市に通い続ける著者は、テレビ局を辞め、ドキュメンタリー映画を作ろうと思い立つ。
大切な家族を亡くした人たちの7年にわたる心の変遷を丁寧に描き出す。