日本人の死因1位であるがん。健康寿命に関わる重大疾患だけに、健康診断ではがんに関わる項目が多い。
だが「異常なし」と診断されても過信は禁物だ。実際に日本人男性の部位別がん死亡数第1位の肺がんにおいて、「胸部X線検査(レントゲン)」で異常が見つからなかったのに、その後、がんで患者が死亡した事例がある。
2018年1月、東京・杉並区にあるクリニックが、区から受託した区民健康診断の肺がん検診として、40代女性の胸部X線検査を行なった。検査画像には腫瘤の影が写っていたが、担当医師2人は「異常なし」と診断した。
しかし受診から約3か月後、女性は呼吸困難や手足のしびれを訴えて、同年6月に死亡した。
問題が明るみに出るとクリニックは、2014~2017年の肺がん検診で「異常なし」と診断された約9400人分の検査画像を再検証した。その結果、70代の男性2人が肺がんと診断されそのうちのひとりが、杉並区在住のAさんだ。
Aさんは2017年8月にクリニックで胸部X線検査を受けた際、画像診断で「異常なし」と診断されていたが、女性の死をきっかけに1年後に受けた再検査では「ステージIIIの肺がん」を言い渡された。
ショックを受けたAさんはクリニックを運営する社会医療法人と杉並区に損害賠償を求める訴訟を起こした(2019年8月に区が謝罪するなどして和解)。Aさんの代理人を務めた梶浦明裕弁護士が指摘する。
「2017年の検診画像には明らかに異常を疑うべき影が写っていました。仮に最初の検査で肺がんが見つかっていれば、AさんはステージI程度ではなかったかと考えられます」
Aさんは現在、別の病院に通い抗がん剤治療を続けている。
「当時Aさんは『かかりつけ医としてクリニックを信頼していたのに』と、非常に落胆していた。治療のためアルバイトもやめざるをえない状況で、経済的にも苦しんでいた」(梶浦氏)