映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・三田村邦彦が、時代劇に特有なセリフ回し、藤田まことさんと共演するなかで鳥肌が立つような思いをしたことについて語った言葉をお届けする。
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三田村邦彦は一九九〇年、テレビ時代劇『将軍家光忍び旅』(テレビ朝日系)で主人公の家光役を演じている。撮影は東映京都撮影所だった。
「その前に三木のり平さんとNHKで共演した際、のり平さんが『今の時代劇はセリフを詠い過ぎて現実味がどんどんなくなっている。だからセリフに感情が伝わってこない。だから今の時代劇はダメなんだ』と嘆いていました。詠う。つまり、リアルから離れた、作り込んだ感じのセリフ回しですね。
そのことに気づいたのが、この『将軍家光忍び旅』でした。
『必殺』の時みたいに自然な感じでセリフを言ったら録音技師さんが『将軍なんだからもうちょっと重々しく言ってくれないとあかんわ』って。それで『これから、この戦いが始まるのか、嫌だな──』と思いました。
それでセリフを詠い始めると、オッケーをもらえる。『このままだと、のり平さんが言っていたのとどんどん遠ざかっていくな』と頭を抱えましたよ。
実は『必殺』の時、藤田まことさんも戦っていました。工藤栄一監督はナチュラルでいいんですが、監督によっては詠ってくれという方もいます。
そういう時、藤田さんは『申し訳ないけど、中村主水はこれでずっとやってきてるので、今さら詠えないのですよ』と。
それでいて、監督をくすぐるように詠うようなセリフ回しをちょっと入れる。藤田さんは芝居の中で不自然じゃない詠い方ができるんですよ」