誰もが夢見るものの、なかなか現実にならない夢の馬券生活。調教助手を主人公にした作品もある気鋭の作家、「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆する須藤靖貴氏が、返し馬での馬券検討総仕上げについてつづる。
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返し馬を見るたびに「左馬」を思い出す。ほら、飲み屋なんかにある将棋の駒の置物。「馬」が裏返しになってるアレです。千客万来の縁起物らしく、反転文字が疾走するようで、右から左に走る馬のイメージに似合う。なぜか私の書斎にもある。
馬券検討の総仕上げ、返し馬も幸運を連れてくる。ただ発券締切まで間がなく、目で追えるのはパドックで絞りこんだ5頭くらいか。パドックを見ずに返し馬のみで馬券を定める御仁もいるらしいが、なかなか忙しいだろう。3頭くらいいっぺんに走り出すときもあるし。
注目は本馬場に下りるとき。興奮して首を強く振ったり、尻っぱねしたりする馬もいる。レースを嫌がっているのか? そういうのがゲート内でしゃがみこんでしまったこともある。
新馬戦と2走目以降は馬の気持ちが違うらしい。新馬戦はなにもかもが初めて。不安だらけなので背に乗る人間を頼りにする。騎手の言うことを聞く。ところが、一度走ってレースの厳しさを知ってしまうと「この前は苦しかった。今日も目一杯走らされるのかなぁ」などと渋る馬もいそうだ。不満を顕にし、鞍上に従わない場合もある。
馬場に下りた馬はゴール板まで並足で進むのが正統。そのあとですっと走り出す。口を割らずに、しっかりと首を振って重心を前に出せる力感が好ましい。なおかつ素軽い走り。だが、「これだ!」という見極めは難しいんだな。