誰もが夢見るものの、なかなか現実にならない夢の馬券生活。調教助手を主人公にした作品もある気鋭の作家、「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆する須藤靖貴氏が、返し馬でどんな馬を探すかにについてつづる。
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じっと我慢。そんなメンタルになれるのも競馬の恩恵だ。ある調教師の言葉。「人の4倍の速さで成長する馬にはフィジカル面では勝てない。人間が上回れるのはメンタルだけ。4倍我慢強くならなきゃ」。至言です。おかげで夫婦喧嘩も減った(相手にされてないのか)。
馬券的には、軽々に即断せずに考えを詰めて定める。的を外しても、後悔の度合いを小さく。自分なりにベストを尽くしたんだから。
返し馬は馬場疾走のフォームを見られる重要情報だ。でもまあ、皆さんあまり見ていないようで、早々と馬券を買いに走ってしまう。私も平成時代はそうだった。それを競馬記者に漏らすと「ムリもないよ。ベテランほどトラウマがあるんだから」という。返し馬にトラウマって?
競馬人気ピークの20世紀末期、競馬場や場外馬券場では入場制限が行なわれていた。馬券売り場には長い行列ができ、1時間待ちも当たり前。パドックすら見る間がない。締切間際になると殺気立ち、「早くしろ!」「この、のろま!」などと怒号が飛び交った。そのせいで早めに馬券を確保したくなる、とのトラウマなのだった。
ネット投票もできる今、発券場は誠に穏当である。焦らずじっと返し馬を見たいではないか。
だから双眼鏡は必携。目をつけた馬の最終確認だ。心に引っかかりがなければ投票カードにペンを立てる。引っかかりとは、まず滑らかに見えない馬。どこかにムダな力がかかっている。走るリズムが一定でないことが見てとれる。