長谷川博己主演で話題を呼んでいるNHK大河ドラマ『麒麟がくる』。登場人物のカラフルな衣装がネット上では賛否を呼んでいるが、専門家はどう見たか。時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんが解説する。
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そんなわけで、早くも戦乱の真っただ中に突入している大河ドラマ『麒麟がくる』。
色鮮やかな映像の数々が話題になっているが、私が注目したのは「衣装の主張」だ。過去には、市川染五郎(現在の松本白鸚)が戦国期に南蛮貿易を志す呂宋助左衛門を演じた『黄金の日日』(1978年)で東南アジアの布を衣装に取り入れた例などはあったが、『麒麟がくる』ほど衣装で登場人物のキャラクターを表現した大河ドラマはなかった。
たとえば、主人公の明智光秀(長谷川博己)は、緑ベースの着物。まっすぐに伸びる竹や笹のイメージだと言われるが、まさしく若き光秀は生真面目でピュアな若竹のような青年だ。生地はペラペラだが、その分、若者らしい清潔感や軽やかさが出る。
その光秀のペラペラ仲間といえば、学友だった斎藤義龍(伊藤英明)。彼は赤が好みらしいが、ちょっとくすんでいるところがポイントだ。斎藤家の嫡男とはいえ、自分が正室の子ではなく、側女の子だと屈折したところのある義龍の心情が出ている。
第二話にはもうひとりのペラペラ土岐頼純(矢野聖人)が登場。美濃の実権を妻・帰蝶(川口春奈)の父斎藤道三(本木雅弘)に握られていることに怒り、言いなりにはならないと言い放つ。水色をアクセントにした公家か官人のような装束でいかにも育ちがよさそうな頼純にしては強気じゃんと思ったが、登場して数分後には、道三に毒殺されてしまった。あらら。
やっぱり親父世代はペラペラ世代より、陰謀にしても衣装にしても一枚上手。この世代は、その貫禄に比例するごとくゴッテリした生地をご愛用だ。
毒に苦しみ、息絶える頼純を流行り歌を口ずさみつつ平然と見つめていた道三。光秀と初対面の際に着ていたのは、黒に赤い柄が浮き出るゴブラン織りのような凝ったものだ。屋敷の中でブルンブルンと槍を振り回す武闘派だが、金勘定はしっかりしていて、光秀の旅を費用を出してくれたのかと思ったら、戦の働きで返せという。さすが「まむし」のニックネームを持つだけはある。今後、蛇柄の着物もあるかも。