中国・武漢発の新型コロナウイルス感染拡大を受け、中国人観光客を受け入れる日本の商店やレストランにも動揺が広がっている。日本政府は、2週間以内に武漢のある湖北省に滞在歴のある外国人などを当面、入国拒否することを打ち出したが、春節でそれ以前に入国していた中国人は数多い。そんな中、1月下旬に日本有数の温泉地・箱根(神奈川県足柄下郡)で起こった騒動は、この問題がいかにデリケートであるかを物語っていた。
〈中国人は入店禁止〉──箱根の駄菓子店「ハウスベイダー」で、店主が中国語で〈コロナウイルスをばらまく中国人は入店を禁止する〉などと書いた張り紙を掲示。朝日新聞(22日付朝刊)が〈掲示に批判も〉との見出しで取りあげると、国籍を理由に入店を禁止したことに加え、店主が「うちの店はマナーの良くない中国人に荒らされてきた」とコメントしたことで国内外からクレームが殺到した。
店主はどんな思いで「差別」とも受け取られかねない張り紙を掲げたのか。駄菓子店を訪ねると、50代の男性店主は一度は取材を断わったが、やがて静かに語り始めた。
「張り紙を掲げたのは1月15日頃だったと記憶していますが、様々なご批判を受け21日に撤去し、24日には店のブログに謝罪文を出しました。度が過ぎていた点は心から反省します。ただ、何よりも大きかったのはコロナウイルスへの恐怖でした。まだワクチンがないんですから。特にうちの場合、狭い密室の店内で接客しなければなりません。それに、箱根の中国人観光客はマスクをしていない人がほとんどでした。春節でさらに増えるだろうと思ったので、張り紙を出させてもらいました。
それでも、あの文面はやりすぎだったと思います。何十件もかかってきた電話やメールの中には、中国の方からの抗議もありました。怒っているというより、“なぜ張り紙をしたのか”と理由を知りたいと。張り紙も外して謝罪したことでご納得いただきました」
その一方で、同業者からは同情の声も届いたという。