中国・湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の被害は、国境を越え日々、広がっている。
コウモリが感染源とされたSARS同様、今回も野生動物が原因と推測される。SARSの反省は生かされず、発生源の華南海鮮卸売市場では長年、ネズミやダチョウ、ワニなどの野生動物が珍味や漢方薬の材料として不衛生な環境で取引されていた。中国版ツイッター「微博」に掲載されていた値段表には、「ムカデ」「活ハクビシン」「活サソリ」などの品目が並ぶ。
まさに「ウイルスのゆりかご」である。昨年末に新型肺炎蔓延の兆候が出てから、1月1日に武漢当局が市場封鎖に動いたが、感染拡大は止められなかった。1月20日になって中国当局が拡大防止を指示し、中国人民解放軍の陸海空3軍それぞれの軍医大学が即座に医療チームを結成。わずか6時間で編成され、訓練まで行なった後、計450人を武漢の病院に派遣した。隔離病院の突貫工事や李克強首相の現地視察など手を打つも、対症療法ではパンデミック(世界的流行)に太刀打ちできるはずもない。
野生動物を食用にすることで2002年、重症急性呼吸器症候群(SARS)の世界的流行を招いた反省は生かされなかった。当時は、感染が広がらないように遺体をバッグに入れて速やかに冷蔵し、最小限の人間で火葬した。今回の武漢市内の病院では、あまりの患者の多さに遺体処理まで手がまわらず、廊下に放置される例もあった。
1月27日、中国共産党の最高指導部で初めて武漢入りした李克強首相。病院や、新設を急ぐ病院の建設現場、スーパーマーケットなどを慌ただしく視察して回った。
ウイルスの蔓延を防ぐべく、武漢の高速道路料金所では出入りする車を軍がチェック。ドライバーの体温を測るなどして封じ込めに躍起だが、効果は未知数だ。
人類を脅かす新たなチャイナリスクに世界は再び直面した。