「実は、裁判資料もあまり読めていないんです。この時期は特に、どうしても気持ちが沈んでしまって」
彼女の控訴審は近く予定されている。だが、その準備はなかなか進んでいないと正直に明かした。「この時期」とは、結愛(ゆあ)ちゃんの命日である。
2018年3月2日、東京・目黒区で船戸結愛ちゃん(当時5才)が虐待の末に死亡し、母・優里(27才)は保護責任者遺棄致死罪に問われた。結愛ちゃんを直接暴行したのは夫・雄大だが、優里が「結果的に容認した罪は重い」と裁判官は判断。夫のDVで正常な判断能力が失われていたことは考慮された上で、実刑8年の判決が下された。
2月7日、優里自ら事件について綴った一冊『結愛へ 目黒区虐待死事件 母の獄中手記』が出版された。そこには獄中で罪や現実と向き合おうとするたびに懊悩する姿が、淡々と描かれている。
◆「逮捕された」ではなく「逮捕していただいた」
手記には、偽らざる優里の言葉が並ぶ(以下《》内は手記からの引用)。
《2018年6月6日、私は娘を死なせたということで逮捕された。いや「死なせた」のではなく「殺した」と言われても当然の結果で、「逮捕された」のではなく「逮捕していただいた」と言った方が正確なのかもしれない》
獄中ノートは、彼女が拘置所に移った2018年8月から書かれている。記憶が鮮明で、感情も整理されていない取り調べ前後の記述は生々しい。
《今日から取り調べが連日行われる。(略)いま私が向き合っている刑事は、どうしても私の苦手なタイプだ。(略)
3か月前、結愛のお葬式の後、私がまだ逮捕されていなくて、任意の事情聴取の時のことだ。「家族みんな葬式で泣いていたのに、あなたは泣いていなかったよね。あれは何? 性格かな? おかしいんじゃないの?」私は悔しかった。涙が出なかったんじゃないんだよ。お葬式で泣くということは被害者の母親に自分が分類されるということ。被害者の母親として被害者づらする私を加害者の私が許さなかった。涙がこぼれないように必死で耐えた》