誰もが夢見るものの、なかなか現実にならない夢の馬券生活。調教助手を主人公にした作品もある気鋭の作家、「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆する須藤靖貴氏が、騎手をみるときに重視するポイントについてつづる。
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パドックから返し馬への流れをじっと書いてきた。だが中山の新馬戦で、その根幹を揺るがすようなものすごいものを目の当たりにした。
パドック周回拒否の馬。引き手の他に後ろに厩務員が付き、ムチで促しても歩かない。内側の芝生に入って休んでしまう。私の横にいた小さい坊やが「あのお馬さん、おうちに帰りたいのかなぁ」などと父親に言う。他馬の調教師も「なんだどうした」と集まってくる始末である。
その「16」、新聞には印がたくさん付いていた。でもこのパドックじゃあ。返し馬はなんとか走ったけど……。ヤル気なしなのは子供にも分かる。ゲートインも難儀しそう。入ってもしゃがみ込んじゃいそうなんだから。
ところが、ですよ。横山和生騎手が大外枠から果敢にハナを切り、押し切って完勝! 私は目と口と鼻の穴を開けはなして船橋の天を仰いだ。
かのダイワメジャーの新馬戦も同じ伝だった。周回せず腹ばいになったのに2着。パドックで分かるのは「状態」で、「能力」までは……という。だが何たる皮肉、パドックを見たせいで外した! でも次走のパドックも必見。ヤル気なしのままでもし勝ったら、そういう馬としか言いようがない。
ということで、騎手である。