音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、年代ごとに変化する台詞回し、マクラも楽しめる柳家小三治のCDについてお届けする。
* * *
昨年ソニーから「令和の新シリーズ」として柳家小三治の2枚組CDが6か月連続発売された。音源はすべて「朝日名人会」(有楽町朝日ホール)で収録されたもの。小三治のCD発売は2007年以来12年ぶりとなる。
第1弾「柳家小三治I」は2007年の『猫の皿』と2008年の『長短』。『猫の皿』は1979年に、『長短』は1972年に演じたものがDVD化されていたが、近年の高座には当時とは比べものにならない深みがある。特に『長短』の面白さはケタ違い。また『猫の皿』の40分近いマクラは、一番の歌詞で平敦盛の最期を描く小学唱歌『青葉の笛』について。2007~2008年頃の代表的なマクラで、音源記録として残ったのは嬉しい限りだ。
「II」は2011年の『青菜』と2001年の『鰻の幇間』を収録。『青菜』は1986年の口演がDVD化されているが、小三治の『青菜』はその後どんどん進化を遂げて「21世紀の十八番」となった。その待望の商品化である。『鰻の幇間』は1983年と2002年の高座がDVD化されているが、CDは初。今では滅多に演らないが、これも「小三治で聴きたい噺」だ。
「III」は2000年の『付き馬』と1999年の『二番煎じ』。『付き馬』は1985年、『二番煎じ』は1995年の口演がDVD発売されているが、どちらもCD化は初。1939年生まれの小三治が60代に突入する時期の脂の乗り切った名演が楽しめる。2席とも志ん朝・小三治が双璧だった演目だ。