放送作家、タレント、演芸評論家で立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、神田伯山襲名披露を控える講談師の神田松之丞についてお送りする。
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兎にも角にも演芸界にとっては大きな慶事である(ケイジとケンジというのは今をときめく東出昌大の作品です、老婆心ながら……)。この2年程マスコミ的にはすっかりヒートアップした感のある“百年に一人の逸材”とハッタリをかます講談師、神田松之丞改め神田伯山の襲名である。当人がラジオで曰く、「マスコミとか芸能の世界であれこれ出たけど、結局味方は爆笑問題の太田光さんと高田センセだけ」と泣き売の手口をみせるが、太田だって私だって陰では一生懸命松之丞のマイナスキャンペーンをやっている。
これだけの勢いで真打に昇りつめ伯山を襲名するというのは、分かり易く言えば徳勝龍の幕尻優勝のようなものだ。芸界敵ばかり。若くて生意気で大嘘つきというのがなんともいい。芸人、若い時は小生意気ぐらいが丁度いい。私が伴走した立川談志もビートたけしもそりゃもう生意気だった。その鼻っ柱をへし折られなかったのが凄いのだ。そこに芸と大衆人気があったから一線のままいられた。日本人なら大好きなノーコンプライアンスなのだ。
“講釈師みてきたような嘘をつき”。有名なフレーズだが松之丞の場合は、“講釈師みてきてさらに嘘をつく”である。ラジオ、高座から放たれる、池袋という中途半端な風土から生まれたであろう的はずれな薄い東京風味の毒ガスがチャーミングでもある。