【書評】『十二月の十日』/ジョージ・ソーンダーズ・著 岸本佐知子・訳/河出書房新社/2400円+税
【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)
ジョージ・ソーンダーズは〈現代アメリカを代表する短編小説の名手であり、“作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家”として知られる〉。ということを私はちっとも知らなかった。
初めて読む作家だが手にとったのは、翻訳家の名が目に飛び込んだからである。世に言うところの「キシモト好み」の小説ならば、絶対面白いにちがいない。その予感通り、興奮する読書の時間を堪能したのだった。
登場人物はみな変でダメな人たちだ。金もなく、悲惨な生活を送り、周囲の人々もどこかイカレているのだが、彼らなりの論理があって一本筋が通っており、妙に納得させられてしまう。しかし、そもそも物語自体がぶっ飛んでいる(翻訳家いわく、ほとんど「バカSF」と呼びたくなるような設定)。
四十歳になった男が日記をつけ始める。女房と三人の子どもと暮らす彼は、金のやりくりに頭を悩ませながらも、おおむね平穏な毎日だ。じきにやってくる娘の誕生日に何かしてやりたいと思っているけれど、金がない。そんな時、スクラッチくじが大当たりするという幸運が訪れる。娘が欲しがっているプレゼントを用意できるし、誕生パーティも開いてやれる。そうとなったら、〈SG飾り〉を庭に飾り、わが家も人並みだと周囲に見せつけてやろうじゃないか!