昨年9月に発生した台風15号は千葉県を直撃し、県内各地のビニールハウスが倒壊。鉄の骨組みは折れ曲がり、撤去解体の見通しも立たない惨状となった。その被害額は200億円を超えるといわれ、ハウス農家は「ビニールハウスを1棟建て替えるだけで100万円以上、経営を立て直すには3年はかかる」と頭を抱えた。
「台風15号の被害で、出荷できない農作物があるはずだと、フェイスブックで呼びかけました。その時に困っている梨農家さんと知り合い、650kgの梨を買い取ったのが活動の始まりです」と語るのは、地域住民の支援や協力を得ながら、廃棄野菜の販売や加工生産、持続的な支援活動を行う『野菜がつくる未来のカタチ』代表理事であり、レスキュー活動『チバベジ』に取り組む鳥海孝範さんだ。
さらに追い討ちをかけたのが、翌10月の台風19号と集中豪雨だ。県内の広範囲にわたる田畑が浸水し、大根、にんじん、キャベツ、かぶ、いちごなどの生産農家を中心に農業全体が未曽有の被害を受けた。
台風などの災害が起こると、農地の浸水以外にも枝折れや落下などにより大量の野菜や果物が被災し、出荷できず捨てられてしまう。チバベジはこうした“被災野菜”などを救う活動を続けている。
「連携する17の農家から廃棄野菜を買い取り、直売所やイベントで販売するだけでなく、賛同いただいた20の飲食店に食材として卸しています。さらにジャムやドレッシング、ピクルス、ジュースなどの加工品を作り、廃棄野菜に新たな価値を見出しています。
世間では被災野菜、廃棄野菜などと呼ばれますが、傷や腐食があっても、その部分さえ取り除けばおいしく食べられるんですよ」(鳥海さん・以下同)
◆農家側の意識改革も課題
この取り組みにより、農家は直売所以上の収益を確保できるようになった。しかし、長年の慣習が立ちはだかることもある。
「被災野菜はもとより、これまで傷物や形の悪い野菜の多くは価値がないとされ、販売に抵抗のある生産者さんもいます。たとえ協力してくれても名前は伏せて、〈千葉県産〉のみ表記するなど、自分の畑で形の悪い野菜ができてしまったという事実を表に出したがらない。そういうかたもまだまだ多いのです」
◆やむなく野菜を廃棄し続ける
現状、野菜の価値は「規格に沿っているか」で決まる。フードロスの根源には「野菜を作っているのではなく、形を作っている」という考えがあるのだ。
「傷物や変形など規格外のトマトでも、チバベジは相応の価格で買い取るため農家さんに驚かれます。つまり農家側の“傷や変形があるものは需要がない”というイメージをひっくり返さなくてはいけない。傷物=廃棄という発想を変えていく必要があるのです」