新型コロナウイルス感染拡大の影響が、各地の国際イベントに波及し始めた。スペイン・バルセロナで毎年開催される世界最大のモバイル見本市は中止となり、上海で4月に予定されていたF1中国グランプリは「状況が改善するまで」延期が決定した。歴史作家の島崎晋氏は、新型肺炎の発生地である中国・武漢で「感染拡大の一因」と報じられた、ある大イベントに注目する。
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中国武漢発の新型コロナウイルスの猛威はいまだ衰えるところを知らない。中国政府が認めているように、当局の初動対応に問題があったことは否めない。昨年末と言わないまでも、せめて年明け早々に詳細な事実が公表されていれば、春節(旧暦の正月)の移動を控える人はもっと多く、武漢市内で大イベントが開催されることもなかったはずである。
ここで言う「大イベント」とは、「万家宴」という大食事会を指している。
2月に入ってようやく、日本の各メディアもこのイベントについて言及し始め、2月8日付けの『読売新聞オンライン』には〈武漢『伝統の大宴会』感染拡大に拍車か…1月半ば、市場近く4万世帯〉という見出しが躍った。本文には〈1月半ばに開かれた地域住民による伝統の大宴会が、感染拡大に拍車をかけたとみられる〉〈4万世帯以上が料理を持ち寄って歓談する伝統行事「万家宴」〉などと書かれている。
同記事には、市中心部で約18万人が居住する集合住宅エリア「百歩亭」が万家宴の会場だったとあるが、筆者には「伝統行事」という部分が引っ掛かった。貴州省のトン族の村に伝わる「百家宴」という伝統行事なら耳に馴染んでいる。過去に日本の複数のメディアでも取り上げられ、それへの参加を売り物にするツアーまで組まれるほどだから、アジア旅行好きの人であれば認知度が高いはずである。
それに対して、武漢の万家宴は初耳であった。2月10日付けの『テレビ朝日ニュース』に至っては、万家宴を〈春節の到来を祝う中国南部の伝統行事〉とまで記しており、ますます頭が混乱してきた。