【著者に訊け】伊吹有喜さん/『雲を紡ぐ』/文藝春秋/1750円
【本の内容】
高校生の美緒は学校に通えなくなって家に閉じこもるが、英語教師の母、メーカー勤務の父とも心が通じない。東京の家を飛び出して向かったのは、岩手県盛岡市にある、祖父の営むホームスパンの工房だった。羊毛を洗うことから修業を始める美緒を人々は温かく見守る。そこに心配した親がやってくるのだが…。布をめぐり家族が再生していく物語を、『彼方の友へ』が直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補になった著者が綴る。
ふわふわの羊毛から糸を紡いで織るホームスパンという布がある。岩手県盛岡市にあるホームスパンの工房を舞台に、高校生の美緒と家族が絆を取り戻していく物語だ。
「ホームスパンは軽やかでとっても丈夫な布なんです。着れば着るほど体に馴染み、親子、孫の3代で着られるくらい心を配って作られています。時を超える布、いつの時代も愛される布に興味を持ちまして、その染め織りに親子、孫の心模様を重ねてみました」
伊吹さんの手には何年も愛用しているというホームスパンの真紅のショール。ふんわりとやわらかく、手仕事の温もりが感じられる。
そんなあたたかな世界がある一方で、家族はギスギスと衝突をくり返す。いじめで高校に通えなくなった美緒は家に閉じこもり、無口な父親とも、激しく非難してくる母親とも心を通わせることができない。
伊吹さんは美緒と父親の2人の視点から家族を描いていく。美緒から見ると不機嫌で怖い父親は、実は娘を気遣っていた。母親の真紀は英語教師の仕事がうまくいかず、大きなストレスを抱えていた。
「2人の視点を通して、母親の真紀の孤独を鮮烈に描けたらいいなと思いました。真紀は私の世代によく見受けられる頑張り屋さんなんです。男性に甘えないで自立するという意識が強い。ゆえに学校に行けない美緒のやわらかい感性や、自分が押し殺してきた女性性が歯がゆくて、もっと強くならなきゃと言ってしまう」