大変な難敵でしたから、1965年にB級10年選手制度(※)を使ってジャイアンツに移籍すると聞いた時は驚きましたよ。この年はV9最初のシーズンになりましたが、僕を含むジャイアンツの選手たちがカネさんから「プロの野球人としてどうあるべきか」「体をどうケアするか」という基本を教わったことは大きかった。カネさんは「体が資本」という野球哲学で、キャンプでは自ら食材を調達して「金田鍋」を作ってくれた。よくお相伴にあずかりました。
【※/現在のFA制度の前身ともいえる制度で、同一球団で10年以上在籍した選手(A級)には、残留してボーナスを得るか、自由に移籍する権利が与えられていた。A級取得の3年後にはB級選手として移籍権が再取得できる。金田氏はB級選手の資格があった】
そして走り込みの大切さを教わり、とにかくよく走った。カネさんにとっては登板明けの休養日でも、僕は野手だからゲームがあるわけです。それでもランニングに付き合わされて試合前からヘトヘトでした。ダブルヘッダーで1試合目にカネさんが投げると、2試合目が始まる前にアメリカンノックで外野を走り回る。野手は2試合目があるのに、お構いなしでみんなが付き合わされる。
走り込みで持久力がついたことで、僕は夏場の7~9月に調子を上げることができた。タイトル争いには夏場の成績が重要ですからね。今では走り込みは常識ですが、すべてカネさんが始めたこと。現役選手は意識していないけど、“金田式”は今も受け継がれているんです。
◆期待とプライドと執念
ジャイアンツで一緒になって、体作りや走り込みで自分に“投資”することを学んだ。おかげさまで長嶋さんも僕も、選手寿命が延びたと思っています。長嶋さんはカネさんに体の柔軟性の大切さを教わっていた。カネさんはピッチングフォームがしなやかで、腕が柔らかい。ゆっくりとした腕の振りから速い球が来るので、バッターはタイミングが合わずに詰まってしまう。長嶋さんは体が硬かったけど、カネさんのおかげで柔軟性を身につけた。