「感染拡大を防ぐため、不要不急の外出を控えてほしい」──2月16日、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議で政府はこう国民に呼びかけた。
だが時すでに遅し。国内初の感染者が出てからおよそ1か月。政府の対応には海外からも批判が相次ぐ。
なかでも400人以上の自国民がダイヤモンド・プリンセス号に乗船するアメリカは手厳しい。ABCニュースは「日本の港で感染の第2の震源地がつくり出されている」と報じ、ニューヨーク・タイムズは日本政府の対応について「公衆衛生の危機対応で『こうしてはいけません』という教科書の見本のような対応」と非難した。
「そもそもウイルスの封じ込めは不可能だったんです」
と語るのは、感染症に詳しい医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんだ。
「クルーズ船の状況からわかるように新型コロナウイルスは感染力が非常に強く、感染しているけれど免疫力で抑えて発症していない人や、発症しても極めて軽症の人がかなりいると考えられる。すでに日本では感染経路のわからない人が続出していることからも、感染者が街中に存在しているとみて間違いありません」
中国・武漢での新型肺炎感染者の致死率は4.0%、中国全土での致死率は0.2%とされる。世界保健機関(WHO)は2月18日、致死率は2%とし、「SARSほど致命的ではない」と指摘した。
だが、感染者数が増えれば、他国との関係も悪化する。すでに日本人の入国を拒否するミクロネシア連邦、サモアのような国が現れ、欧米諸国も同様の措置を検討中とされる。ナビタスクリニック理事長の久住英二さんはこう話す。
「現在、アメリカなど60を超える世界の国と地域が中国からの入国を制限しています。今後、日本国内の感染者が増え続ければ、同様に日本人の渡航が制限される可能性があります。もしも7月の東京五輪開幕まで渡航制限が続けば、ウイルスを恐れた選手団が参加をボイコットしたり、多くの観客が来日をキャンセルするなど不測の事態が相次ぎ、五輪開催が危ぶまれる恐れがあります」
すでに2月23日の天皇誕生日に皇居で行われる予定だった一般参賀や、3月1日の東京マラソンの一般参加が中止になるなど、国家的なイベントへの影響が出ている。
◆全国の感染症専用ベッドが満床に
次なる可能性は「都市封鎖」だ。武漢は死者17人が出た1月下旬に感染拡大を防ぐために街を封鎖した。街から人気が消え、電車やバスなど公共交通機関はストップ、幹線道路は封鎖されて市外に出られないという、悲惨な状況だったことは記憶に新しい。それが、日本でも感染爆発をきっかけに現実になる恐れがある。