韓国人観光客の足が遠のいたことによる対馬の窮状が伝えられている。その最新事情を探るべく、ソウル在住のジャーナリスト藤原修平氏は対馬を訪問した。
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「去年の6月までは韓国人客がたくさんいたんですけどね。いまはさっぱりですよ」──私が韓国に住んでいることを伝えると、対馬の人たちは誰もが懐かしむようにそう話した。2020年2月上旬のことだ。私はふと思い立ち、2泊3日の旅程を組んで対馬を訪れた。
私が以前から知る対馬といえば、韓国人ツアー客が押し寄せる観光地としてだ。韓国の釜山から高速船でわずか1時間という地の利もあるのだろう。一日に何便もの高速船が釜山と対馬を結び、船の到着地である対馬北部の比田勝(ひたかつ)港周辺では、住民よりも韓国人客のほうが多く見られたという。
それが一変したのは昨年夏のことだ。徴用工問題に端を発する日韓の対立が激化した結果、日本製品の不買や日本旅行中止を訴える「ノージャパンキャンペーン」が韓国全土を席巻。これに伴い、対馬を訪ねる韓国人客の足が途絶えた。
今回の旅行で私が釜山から乗った高速船の乗客は、ざっと数えたところ100人いるかどうか。乗船率は25%ほどだった。この船を運航するのは韓国の未来高速社で、ネットの予約サイトでは往復チケットが2000~3000円という破格の安さで売られている。ちなみに、日本のJR九州が運航する高速船の場合は往復で5000円~が相場だ。
しかもこの未来高速社のネット予約は、不思議なことに、往復であれ片道であれ、釜山発のチケットしか購入することができない。出発地を比田勝に設定できないようになっているのだ。ホームページも韓国語しかないところを見ると、もっぱら韓国人だけを顧客として当て込んでいるらしい。実際に乗客のほとんどは韓国人で、入国時に日本人のブースで審査を受けたのは私を含めて3人ほどだった。
比田勝港の国際ターミナルを出て宿泊先まで歩いて向かうと、すぐに真新しい建物の免税店が目に飛び込んでくる。ドアから中をのぞくと、がらんとした店内で手持ち無沙汰にしている店員の姿ばかりが目立つ。
対馬には比田勝だけでなく、南部の厳原(いづはら)にもいくつかの免税店がある。ネットで調べると島内に全部で8軒あるという。そのうち私が目にしたのは5軒ほどだが、どこも比田勝の国際ターミナルそばの店舗とおなじような状況で、閑古鳥が鳴いていた。