音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、創作落語の第一人者、桂文枝の噺に宿る「ヒネリ」についてお届けする。
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桂文枝と言えば創作落語のトップランナー。1980年代から日常を舞台にした普遍性の高い噺を作り続け、この3月にはなんと通算300作目をネタおろしするというから凄い。
文枝作品を演じる落語家は多く、東京では小三治一門の柳家はん治が『ぼやき酒屋』『鯛』『背なで老いてる唐獅子牡丹』『妻の旅行』等を演じているが、文枝本人の高座に触れる機会は少ない。それだけに1月11日から有楽町朝日ホールで3日連続昼夜で行なわれた計6公演の「桂文枝新春特撰落語会」は貴重な機会だった。
この公演では『家族の絆』『笑わない男』の二席がネタ出しされていた。ちなみに昨年ラグビー日本代表の稲垣啓太が「笑わない男」として話題となったが、文枝の『笑わない男』はずっと前に作られていて、ラグビーと無関係だ(もっとも公演チラシでは文枝がちゃっかりラグビーのユニフォームを着ていたが)。
僕が観たのは初日の夜公演。一席目の『家族の絆』は、両親、妻、息子、娘と三世代同居している男が、バラバラな家族に一体感を持たせるためファミリークイズ番組に出ようと提案する噺。仕事一筋で家庭を顧みなかった男が突然家族の絆を求める姿に戸惑う一家をコミカルに描く。問題集で予習を重ね一丸となって臨んだクイズ本番で迎えた結末に「家族とは」と考えさせられた。