偶然なのか時代がもたらす必然なのか、定かではないが、今クールのドラマでは、強く美しい女性の活躍が目立つ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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「魅力的な、堂々とした、見事な、気前のよい、巧みな」。英語の「ハンサム」の意味を調べると、そんな言葉が出てきます。ハンサムはかつて主に男性に使われてきた言葉でしたが、今や「ハンサムウーマン」という言葉もしばしば耳にします。
社会で活躍する女性が増えたこととも関係あるのかもしれませんし、NHK大河ドラマ『八重の桜』(2013年)で主人公・新島八重が男装して戦いに参加、夫から「ハンサム」と言われたことが広く知られてより一般化したのかもしれません。
そう、“ハンサムな女性”とは美しくかつ堂々として強さや勇気を持つ人のこと。今期のドラマの中に、まさに惚れ惚れするような「ハンサムウーマン」がいます。その筆頭が『テセウスの船』(TBS系日曜午後9時)で由紀役を熱演している上野樹里さん。
『テセウスの船』の物語は……主人公・田村心(竹内涼真)が、過去と現在をタイムスリップしつつ、殺人事件の犯人にされた父の無実を証明しようと格闘するミステリー。冒頭、主人公の妻・由紀という役柄で登場した上野さんは、心がタイムスリップして過去から戻ってくると、今度は真実を追究する週刊誌記者として再登場。主人公を支え励ましていく。一人二役とトリッキーな物語設定ですが、上野さんの説得力ある演技で不自然さを感じさせません。
毅然としたその態度、凜とした目つき、揺らがぬ信念と強さ。とにかく上野さんの顔つきが清々しくて格好よくて思わず見とれてしまったのが、第4話終わりのシーンです。事件の被害者の会合で、記者・由紀は壇上に駆け上る。
「事件の真実を追究すべき」「今犯人とされている男は濡れ衣をかけられているかもしれない」「もしまだ語っていないことがある人はぜひ口を開いて欲しい」と熱く説く。聴衆から水をかけられても動じず、しっかりとマイクを握りしめ、一つ一つ丁寧に言葉を紡ぎ出す力強さには泣けた。目を奪われてしまった視聴者も少なくないはずです。
第5話でもそうでした。心が折れそうになる主人公に対して「私は諦めません」と力強く励まし包み込む。「ハンサムウーマン」度がぐーんとうなぎ登りです。
もちろん、由紀を演じる上野さん自身の演技が素晴らしいことは言うまでもないのですが、彼女の「ハンサム度」がこれほどまでに引き出された要因として、主役・竹内さんの集中力と真に迫る演技力も見逃せない。目を潤ませてギリギリの瀬戸際に立つ人物を熱演する竹内さん。「どうしても冤罪の父を助けたい」という切迫感が画面に溢れ、それに反応して上野さんも揺さぶられ互いに影響しあう。まさに二人の役者の往復運動が見所です。
人間が演じるからこそドラマは面白い。一人の言葉が相手に影響を与え相手を変え、それがまたブーメランのように戻っていく。このドラマは芝居の持つ醍醐味を見せてくれています。