【著者に訊け】絲山秋子氏/『御社のチャラ男』/講談社/1800円+税
会社で働くということ。それが「=仕事」だけを必ずしも意味しないのは、理想の上司ランキング等の顔ぶれを見ても明らかだ。
「会社に居心地の良さを感じる人もいれば楽しさを求める人もいて、仕事しかしてない人なんて一握りですよね。ただ、今はそうした鷹揚さがよくも悪くも失われつつあるのも確かで、様々な面で変化に直面する現代社会を、会社員という切り口から書いてみました」
絲山秋子氏の新作、その名も『御社のチャラ男』は、要領がよく、お調子者ともヤリ手とも言えば言える、ジョルジュ食品の名物部長、〈三芳道造〉44歳を巡って、部下や妻の元夫や三芳本人までが大いに語りまくる、多視点会社員小説だ。
〈チャラ男って本当にどこにでもいるんです。一定の確率で必ず。〉と帯にあるが、社内不倫にモラハラ等々、何かとお騒がせな彼の姿は、日本のカイシャと、働く人間たちの映し鏡でもあった。
訪れたのは群馬県高崎市。絲山氏は2006年の芥川賞受賞から程なく、会社員時代の赴任先の1つだった高崎に住民票を移し、今ではすっかりこの街の住人である。
「2005年には部屋を借りてましたから、丸15年になります。今日もこの近くを散歩してきましたが、良きにつけ悪しきにつけ昔のままの部分と新しいものが混在している町です。会社の、効率の悪い部分を残しつつ、最先端のものも取り入れる歪な感じが、人の住む町に似ていると思いました」
一番手は、〈文字通り油を売って生きております〉と宣う営業部員〈岡野繁夫〉32歳。目下人気のヘンプオイルやビネガー類の効用について彼が語る能書きは全て部長が考えたものだ。その手のはったりにかけては天才的な上司を、彼は独特の距離感で見つめる。〈商品には存在する意味がある。たとえそれが草の種を潰して適当な液体で薄めたものだとしてもだ〉〈仕事の周辺だけでもまっとうに動いているということは、俺にとっては大きな救いだ〉