ライフ

相撲好きが集まる両国の地で老舗酒屋が50年ぶりに角打ちを復活

壁に貼られた相撲の錦絵が見下ろす店内ではP箱を3段積んだテーブルを囲み、客たちが盛り上がる

「おばあちゃんと相撲見ながら一杯やると、なんだかほのぼして。お店のみんなが温かくて、居心地がいいんですよ」(40代教育関係)。

 東京の言わずと知れた「相撲の街」両国に店を構える『大橋屋酒店』には、駅を挟んで反対側にある国技館から相撲見物帰りの客も訪れる。

 明るい店内では、「P箱(酒ケース)重ねて板を乗っけただけ」という店主お手製の角打ち台を囲み、仕事を終えたスーツ姿の男たちを中心に笑い声が響いていた。飛び入りした相撲好きだという女性客も常連客と早速意気投合。賑わう客らを、天井から錦絵の中の力士が静かに見下ろしている。

「うちはひい爺さんの代から酒屋をやってましてね、昔から相撲部屋へちゃんこに使うみりんや酒を配達してます。力士が贈答用のお酒を買いに来てくれたりもしますよ」と語るは、4代目の大橋英一さん(61歳)。昨年50年ぶりに角打ちを復活させた。

「おふくろはもともと湯島の酒屋の娘でね、嫁いだ先も酒屋だったんですよ。今でも夕方まで店番してもらっている。91歳にして堂々と看板娘だね」と笑う。大橋さんの母と妻、夕方からは息子も助っ人となり、家族みんなで店を切り盛りしているという。

「私が子供のころに両親が角打ちやってたんですが、そのころと違って、今は皆さん行儀よくて、楽しく飲んでさっと切り上げていかれますね。もっとうちの酒を広められたらいいなと思って角打ちを始めたはいいけど、昔とずいぶん勝手が違っているからね。今どきの角打ちのことはお客さんに教えてもらいながらやっています」(大橋さん)

 この日の客たちは、角打ちを再開した当初から通う人が大半だ。

 角打ち第一号客は、「私は、もともとある老舗角打ちに20年くらい通ってたんだけど、両国に会社が移転してね。仕事帰りにこの道を歩いてたら、角打ち始めましたって貼り紙があって、嬉しくて店に飛び込んだんですよ。そうしたら、まず角打ち台が低いのが気になって。P箱2段積んであったんだけど、立ち飲みには3段積んだほうがいいとか、お酒はこのくらいの値段がいいんじゃないか、氷も売ったほうがいいよって、あれこれ口を出したくなっちゃってね」(60代製紙業)と初訪の日を振り返る。

 その話を聞いた他の客たちがすかさず、「俺たちもこの店を好き勝手に“コンサル”している(笑い)」と口を挟んできた。

「会社から歩いて5分だから」「仕事の帰り道だしね」などと何かと理由をつけては、毎晩この店に集い、あれこれと口を出し、愛情を注ぎ込んでいるのだ。

「ここは俺たちが育てた店だね」と自慢げな常連客たちに、「テーブルも好きに動かしてもらっていいよ。くつろいで飲んで欲しいからね」と店主は、どこまでも客の好みを優先する姿勢だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

タイ警察の取り調べを受ける日本人詐欺グループの男ら。2019年4月。この頃は日本への特殊詐欺海外拠点に関する報道は多かった(時事通信フォト)
海外の詐欺拠点で性的労働を強いられる日本人女性が多数存在か 詐欺グループの幹部逮捕で裏切りや報復などのトラブル続発し情報流出も
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《虫のようなものがチャーシューの上を…動画投稿で物議》人気ラーメンチェーン店「来来亭」で異物混入疑惑が浮上【事実確認への同社回答】
NEWSポストセブン
6月9日付けで「研音」所属となった俳優・宮野真守(41)。突然の発表はファンにとっても青天の霹靂だった(時事通信フォトより)
《電撃退団の舞台裏》「2029年までスケジュールが埋まっていた」声優・宮野真守が「研音」へ“スピード移籍”した背景と、研音俳優・福士蒼汰との“ただならぬ関係”
NEWSポストセブン
小室夫妻に立ちはだかる壁(時事通信フォト)
《眞子さん第一子出産》年収4000万円の小室圭さんも“カツカツ”に? NYで待ち受ける“高額子育てコスト”「保育施設の年間平均料金は約680万円」
週刊ポスト
週刊ポストの名物企画でもあった「ONK座談会」2003年開催時のスリーショット(撮影/山崎力夫)
《追悼・長嶋茂雄さん》王貞治氏・金田正一氏との「ONK座談会」を再録 金田氏と対戦したプロデビュー戦を振り返る「本当は5打席5三振なんです」
週刊ポスト
打撃が絶好調すぎる大谷翔平(時事通信フォト)
大谷翔平“打撃が絶好調すぎ”で浮上する「二刀流どうするか問題」 投手復活による打撃への影響に懸念“二刀流&ホームラン王”達成には7月半ばまでの活躍が重要
週刊ポスト
懸命のリハビリを続けていた長嶋茂雄さん(撮影/太田真三)
長嶋茂雄さんが病に倒れるたびに関係が変わった「長嶋家」の長き闘い 喪主を務めた次女・三奈さんは献身的な看護を続けてきた
週刊ポスト
6月9日、ご成婚記念日を迎えた天皇陛下と雅子さま(JMPA)
【6月9日はご成婚記念日】天皇陛下と雅子さま「32年の変わらぬ愛」公務でもプライベートでも“隣同士”、おふたりの軌跡を振り返る
女性セブン
(インスタグラムより)
「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画…直後に入院した海外の20代女性インフルエンサー、莫大な収入と引き換えに不調を抱えながらも新たなチャレンジに意欲
NEWSポストセブン
中国・エリート医師の乱倫行為は世界中のメディアが驚愕した(HPより、右の写真は現在削除済み)
《“度を超えた不倫”で中国共産党除名》同棲、妊娠、中絶…超エリート医師の妻が暴露した乱倫行為「感情がコントロールできず、麻酔をかけた患者を40分放置」
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト