ドイツ出身のエッセイスト、サンドラ・へフェリン氏
確かに政府の対応は遅きに失しているが、問題はそれだけでもないだろう。新型コロナウイルスに揺れる日本社会について、コラムニストの石原壮一郎氏が指摘する。
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新型コロナウイルスをめぐる騒動が、たいへんなことになっています。ひとりひとりの用心と対策が大切なのは言わずもがな。それはそれとして、コロナ関連のニュースを見ていると、「この光景はどこかで……」と既視感を覚えることがあります。
ノロくてピントがずれている政府や役所の動き、実際の効果は二の次で「いちおうやりました」というポーズを取りたいだけの対応、「自粛」を求める空気と「不謹慎狩り」の盛り上がり……などなど。このあたりは、もはや日本のお家芸と言っていいでしょう。
なぜ同じことが繰り返されるのか。先日、なるほどそういうことだったのかと膝を打つ本が出ました。日独ハーフのエッセイストで多くの著書を持つサンドラ・ヘフェリンさんの最新刊『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)です。子ども時代は日本とドイツを行き来し、学校を卒業してから20年以上ずっと日本で働いているサンドラさんに、「体育会系」がどんなふうに日本を蝕んでいるかを聞きました。
「新型コロナウイルスの拡大はもちろん深刻です。それとは別に、日本にはもともと『体育会系ウイルス』が蔓延していて、今回のような問題が起きたときには、そのウイルスが事態をより悪化させているんじゃないでしょうか」
この本で言う「体育会系」とは、スポーツをしているかどうかとは関係ありません。現状に疑問を抱くことを許さず、とにかく「やればできる」という根性論を押し付けて、空気を読んでまわりに合わせることを求め、うまくいかなかったら「お前の頑張りが足りない」と個人の責任にしてしまう構造のこと。日本に蔓延しているそんな構造が、いかに学校や会社をブラックにし、女性に無理を強いる社会や、みんながお互いに足を引っ張り合う社会を作っているかを解き明かしています。
「ダイヤモンド・プリンセス号で業務にあたっていた厚生労働省などの職員が、ウイルスの検査を受けずに職場に復帰したというビックリな報道がありました。検査をしなかったのは『陽性者が多く出た場合の業務への影響などを考慮した』からだなんて、呆れて声も出ません。まさに日本の組織の体育会系っぷりを象徴する出来事だと思います」
その後、批判の影響で(?)何割かは2週間の自宅待機にしたようですが、実際に職員の中から感染者が確認されました。下船した人をバスで駅まで運んで、「あとはこっちの責任ではない」とばかりに、そのまま公共交通機関で帰したことも問題視されています。
「新型コロナウイルスが日本に入ってきた最初の頃は、熱があったのに無理に出張に行った会社員がいたことも話題になりました。日本には『風邪ぐらいで会社を休むな』『風邪は病気のうちに入らない』という風潮があります。今の時点でも、少しぐらい熱があってもそれを隠して出社している人はいるでしょう。仕事がいちばん大事、何があっても会社や同僚に迷惑をかけてはいけない、ほとんどの人はその前提から抜け出せません」