国内

盛り上がる日本刀ブーム 戦前の専門書がベストセラーに

高価で難解な専門書にもブームの波が広がっている

 日曜日の昼下がり、都内在住のOL平元寛子さん(30才)は冬のボーナスとこれまでの貯金の一部を切り崩して、奈良県の山奥に住む刀職人から一振りの短刀を購入した。

 価格はゆうに100万円を超えたが、平元さんは大満足だ。週に1度は整頓をした部屋で桐箱を取り出し、ひとり暮らしの床にそっと置く。正座して、背筋をピンと伸ばし、桐箱のふたを静かに開けると、そこには銀白色に輝く小ぶりな日本刀が。平元さんは一礼して、愛おしそうに短刀を手に取る。

 東京で働く32才の薬剤師の女性も、おろしたての服を着て、メイクもばっちり決めてから日本刀を眺め手入れをする。刀を手に入れたその日から、休みの日に「マイ刀」を愛でるのが極上の愉しみになった――。

 いま、彼女らのように刀の美しさに魅入られた「刀剣女子」が増えている。いい日本刀といえば、「折れず、曲がらず、よく切れる」が条件といわれ、日本人は古来、戦いの武器として「刀」を大切に扱ってきた。

 源頼朝をはじめとして、歴史上の偉人は刀とセットで描かれてきた。その多くはもちろん男性だ。しかし、今度は女性たちが刀を手にするようになっている。

 長引く出版不況のなか、刀の専門書の売れ行きが好調だ。

 岩波新書の『日本刀』(本間順治著)はもともと戦前の1939年に発行されたものだ。2019年10月に1943年の5刷以来76年ぶりに復刊すると全国から注文が殺到し、4か月弱で累計1万5000部を売り上げるベストセラーになった。新書編集部の中山永基さんは驚きを隠せない。

「美術研究の大家が、当時の日本刀研究をまとめた一冊です。かなり専門的な内容のうえ、旧字のまま復刊したので難解で、決して読みやすい本ではないと思うのですが、みなさん一生懸命に読んでくださっています。復刊した本に注文が殺到するのは初めてのことです」

 名刀200本の魅力と歴史を紹介する『名刀大全』(小学館)も、本体価格3万5000円にもかかわらず、売れ行き好調だ。

「発売前から予約や問い合わせが殺到して発売前重版になりました。従来の美術書や専門書は書店で実際に手に取って購入されるケースがほとんどですが、『名刀大全』はアニメイトの予約サイトから購入されることが多いのも特徴です」(小学館の高橋進さん)

 アニメイトとは、アニメやコミック、ゲーム関連のグッズを扱うショップのこと。つまり読者の多くは、アニメやゲームなどのエンタメ作品を入り口にして、難解かつ高価な専門書にも手を伸ばすようになったのだ。

 加えて2018年に京都国立博物館で開催された「京のかたな」展をはじめとして刀剣の展示には女性たちの長蛇の列ができている。

 日本刀を保存・公開する刀剣博物館学芸員の久保恭子さんが指摘する。

関連キーワード

関連記事

トピックス

中居正広氏の兄が複雑な胸の内を明かした
【独自】「弟がやったことだと思えない…」中居正広氏“最愛の実兄”が独白30分 中居氏が語っていた「僕はもう一回、2人の兄と両親の家族5人で住んでみたい」
NEWSポストセブン
2024年末に第一子妊娠を発表した真美子さんと大谷
《大谷翔平の遠征中に…》目撃された真美子さん「ゆったり服」「愛犬とポルシェでお出かけ」近況 有力視される産院の「超豪華サービス」
NEWSポストセブン
新田恵利(左)と渡辺美奈代があの頃の思い出を振り返る
新田恵利×渡辺美奈代「おニャン子クラブ40周年」記念対談 新田「文化祭と体育祭を混ぜたような感覚でひたすら楽しかった」、渡辺「ツアーも修学旅行みたいなノリ」
週刊ポスト
放送時間を拡大しているフジテレビの『めざましテレビ』(番組公式HPより)
日テレ『ZIP!』とフジ『めざまし』、朝の“8時またぎ”をめぐるバトルがスタート!早くも見えた戦略の違い
NEWSポストセブン
新政治団体「12平和党」設立。2月12日、記者会見するデヴィ夫人ら(時事通信フォト)
《デヴィ夫人が禁止を訴える犬食》保護団体代表がかつて遭遇した驚くべき体験 譲渡会に現れ犬を2頭欲しいと言った男に激怒「幸せになるんだよと送り出したのに冗談じゃない」
NEWSポストセブン
公的年金は「社会的扶養」「国民の共同連帯」「所得再分配機能」(写真提供/イメージマート)
《まるで借りパク》政府の基礎年金(国民年金)の底上げ案 財源として厚生年金を流用するのは「目的外使用」ではないのか、受給額が年間8万円以上減額も
NEWSポストセブン
地元の知人にもたびたび“金銭面の余裕ぶり”をみせていたという中居正広(52)
「もう人目につく仕事は無理じゃないか」中居正広氏の実兄が明かした「性暴力認定」後の生き方「これもある意味、タイミングだったんじゃないかな」
NEWSポストセブン
『傷だらけの天使』出演当時を振り返る水谷豊
【放送から50年】水谷豊が語る『傷だらけの天使』 リーゼントにこだわった理由と独特の口調「アニキ~」の原点
週刊ポスト
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
《英国史上最悪のレイプ犯の衝撃》中国人留学生容疑者の素顔と卑劣な犯行手口「アプリで自室に呼び危険な薬を酒に混ぜ…」「“性犯罪 の記念品”を所持」 
NEWSポストセブン
原監督も心配する中居正広(写真は2021年)
「落ち着くことはないでしょ」中居正広氏の実兄が現在の心境を吐露「全く連絡取っていない」「そっとしておくのも優しさ」
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
〈山口組分裂抗争終結〉「体調が悪かろうが這ってでも来い」直参組長への“異例の招集状” 司忍組長を悩ます「七代目体制」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(時事通信フォト)
「うなぎパイ渡せた!」悠仁さまに筑波大の学生らが“地元銘菓を渡すブーム”…実際に手渡された食品はどうなる
NEWSポストセブン