明るい話題で盛り上がりにくい現実世界を離れて、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師がすすめるのは不条理な絵本の世界。自分らしい生き方を見つけるためのヒントをくれる、不条理で刺激的な絵本作家・エドワード・ゴーリーの世界を鎌田医師が紹介する。
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不条理で、刺激的で、しゃれていて、不気味なのに、なんだかクスっと笑ってしまう。『華々しき鼻血』(柴田元幸訳、河出書房新社)は、そんなエドワード・ゴーリーらしさが光る一冊だ。
この作品は、アルファベット・ブックになっていて、ABC順に副詞が取り上げられている。「A=Aimlessly」(あてどなく)「B=Balefully」(まがまがしく)「C=Clumsily」(ぞんざいに)といった具合だ。ただ、その副詞の選び方は、訳者いわく「何とまあ偏った選び方か」。
ほとんどが否定的な響きをもつ言葉だが、決して悲観的ではなく、突き放したさわやかさがある。ゴーリーの魔術といわれている。
訳者は、「いろはカルタ」風に訳している。例えば、「ぞんざいに きょう(供)された プディング」という文言には、崩れたプディングを出された客の、もの言いたげな様子の絵がついている。
「とめどなく あみたる マフラー」という文言には、長くたなびくマフラーを巻いた人たちの姿。
だから何だと言ってしまえば、それまでだが、なんとなく笑いがこみあげてくる気もするし、しっとりと哀感が心を満たす気もする。
エドワード・ゴーリーは1925年、シカゴで生まれた。独特の韻を踏んだ文章と、ちょっと不気味なモノクローム線画の作風で知られている。2000年に75歳で亡くなったが、日本ではそのころから人気になった。