映画、文芸評論などで知られる作家の川本三郎氏(75)は、2008年に妻・恵子さん(享年57)を食道がんで亡くしたのち、日常生活で数々の“壁”を実感したという。
「精神的なダメージに加えて、食事、掃除、洗濯、買い物などの家事は家内に任せきりだったので、本当に大変でした。うちは子供がいないので、全て自分一人でやらなければいけなくて。 最初は頑張って自炊していましたが、食材の賞味期限が切れて、冷蔵庫でカビが生えることがよくありました。ちょうどいい塩梅が分からず、一人では食べきれない量を買ってしまうんです。
ファッション関係の仕事をしていた家内が服を選んでくれていたので、亡くなった後は何を着ればいいのかも分からない。通帳や印鑑の場所もわからず、税金の支払いや銀行での金の出し入れなど細々した雑事に追われました」
妻亡き後、一人暮らしを続ける川本氏だが、死別から2年で小さなマンションに引っ越した。
「長く一緒に過ごした家にいると、どうしても家内を思い出してしまうので。ただ、引っ越した先でも、“家内の不在”を感じてしまうものです。一人では片付けもできず、粗大ゴミも出すことができない。本やDVDが溢れかえって、新居もすぐに物置状態になってしまいました(苦笑)」
孤独死の恐怖にも苛まれた。
「冬のお風呂場などは突然死が怖いですからね。倒れたら誰も気付かない。最悪の可能性を考えて、親しい編集者には合鍵を渡しました。
酒量も減らしています。家で一人で飲んで酔いつぶれるのは危ないし、転んで怪我でもしたら大変です。近年は警備会社が冷蔵庫の開閉をセンサーで感知し、1日1回も開け閉めがないと見回りにくるサービスがあるので、本気で加入を考えています」