2月下旬のある日、都内に住む20代女性は2才の息子の異変に気づいた。元気がなく、ぐったりしてご飯に口をつけない。慌てて体温を測ると38℃もあった。
女性も1週間前からのどが痛く、微熱があった。思い起こせばこの数日、日用品の購入のため、息子を連れて大型ショッピングモールを歩き回っていた。品切れだったので、マスクはつけていなかった。
しかも、夫は仕事で出張していたアメリカから帰国したばかりだった。
テレビや新聞は連日、新型コロナウイルスのニュース一色だ。夫や自分、もしくは不特定多数の人との接触を通じて、息子が感染したのではないか──そんな不安を抱いた女性はすぐに検査で確かめてもらおうと、保健所に設置された「帰国者・接触者相談センター(以下、相談センター)」に電話した。
だが返答は、「検査は受けられない」だった。
「“直接中国人と接触したか、中国に渡航していないと検査は受けられません。近くの病院で薬をもらってください”と言われました。すでに感染経路なんてわからなくて発症した人も多いのだから、いまさら中国うんぬんと言われて納得できますか? 幸い息子の熱は下がりましたが、私だって、夫だって感染しているかもしれない。外出もしにくく、すごくストレスがたまっています」
いま、この女性のような「検査難民」が日本を埋め尽くそうとしている。
厚生労働省が新型コロナウイルスの検査対象の基準とするのは、感染者との濃厚接触や流行地域への渡航歴があり、37.5℃以上の発熱と、入院の必要な肺炎が疑われる症状があるケースに限られてきた。2月17日になってやっと渡航歴や感染者との接触歴に関係なく、「医師の総合的な判断で感染症を疑う者」が検査対象に加えられた。
実際の臨床現場では、医師が「検査が必要」と判断したら保健所に連絡し、さらに保健所が地方衛生研究所(衛生研)など実際に検査をする機関に依頼する流れだ。
最大の問題は検査の実績である。当初、政府は「1日約3800件の検査が可能」(2月18日)と説明したが、実際にはそれらをフル稼働させず、2月下旬の段階で1日平均でたったの900件の検査しか実施していなかったことが国会での追及で明らかになった。
つまり、政府は検査体制を拡充することを、完全にサボったのである。少なすぎる実績が背景にあり、「検査拒否」が多発しているのだ。
すでに全国で検査を拒まれた実例が多数報告されている。都内の9才男児は37.5℃以上の発熱が9日間続き、母親が相談センターに電話したところ「小児科を受診してください」と指示された。
「病院で肺炎と診断されたが、熱や咳が治まらないので母親が再び相談センターに連絡したところ、“対象ではない”と検査を拒否されました」(全国紙社会部記者)
医師が検査を依頼したが、保健所が断るケースもある。