父の急死で、認知症の母(85才)を支える立場になった女性セブンのN記者(55才)が、介護の日々を綴る。
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サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)の母の部屋のカーテンは防炎・防音・完全遮光。認知症を抱えての新生活によかれと思って選んだが、毎朝カーテンを開ける習慣が失われつつあるいま、昼間でもまっ暗闇を作る元凶に。春に向け、カーテン新調を計画中だ。
◆母こだわりのインテリアは黄色い花柄のカーテン
認知症の母の独居がままならなくなり、サ高住への転居を決めたのは6年前。契約から約1か月で母の荷物をまとめ、サ高住の部屋を整えて引っ越すという強行軍を、仕事の合間を縫って行った。
ひとりっ子だから、合議や役割分担の煩わしさがない分、すべての決断もほぼひとり。特にこの転居は相当なプレッシャーだった。不穏が続く母に、新居に持っていく服や家具など一応、相談してはみるものの、反応は薄く、本当に孤独で不安だった。
それでも心を砕いたのはカーテン選びだ。父と母が40年住んだ団地から終の住処に選んだマンションに引っ越したとき、母がこだわったのがカーテンだったからだ。家具店を何軒も回って探したらしい。引くとリビングがパッと華やぐような黄色い花柄。倹約を重ねた団地時代、ずっと夢見ていたと言っていた。
「素敵ね…」とカーテンを眺める母の幸せそうだったこと。
その思い出を唯一の手掛かりに、私もネット通販のほか、家具店を走って回ったのだ。
カーテンにもいろいろ機能があった。母はこっそりたばこを吸うので、まず防炎加工は必須だ。幹線道路沿いの賑やかな場所にあるサ高住なので防音も大事。そして“遮光”にも目が留まった。私は仕事柄、昼夜逆転もざらなので寝室は必ず遮光カーテン。「高齢者は睡眠が何より大事」と医者も言っていたから、遮光も基本だろう。
防炎・防音・遮光がそろい、母が選んだ柄に似たかわいい花柄も見つけた。小さな達成感に小躍りしながら、安易な選択をしたことに、そのときはまったく気づかなかった。
◆カーテンを開けない母 昼間からまっ暗闇に