【書評】『ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ』/尾崎俊介・著/平凡社新書/880円+税
【評者】平山周吉(雑文家)
「女人禁制」ならぬ「殿方厳禁」の世界を覗き見る面白さに溢れかえった本である。『ハーレクイン・ロマンス』は、その手の恋愛とも、その手の甘い小説とも、生涯まったく縁のない凡夫が読んでも興味津々の本なのであった。
著者の尾崎俊介は日本エッセイスト・クラブ賞を受賞しているアメリカ文学者で、その軽妙洒脱な筆で、未知の(さして興味の湧かない)ジャンルを案内されると、すっかりその世界にハマって、「通」になった気分である。
副題に「恋愛小説から読むアメリカ」とあるが、本書はその成分である「恋愛」「小説」「アメリカ」をハーレクインを介して、あざやかに解析した文化史である。イギリス→カナダ→アメリカと国境を越えて来たロマンス小説が、マーケティングの威力により、「洗剤」のように売れていく。その時、アメリカのペーパーバック市場が極端な男性向けだったことも有利に働いた。
ヒロインに感情移入しながら読む女性読者は、小説の中で完璧なヒーローに出会い、障害を乗りこえて恋に落ち、結婚というハッピーエンドを迎える。このお約束の展開が読者を病みつきにさせる。ヒロインは「ある程度」かわいいが、かわい過ぎてもいけない。その匙加減。性的魅力を発散するライバル女よりも奥手である。