東日本大震災から9年の月日が経った。いまだ被災地に震災の爪痕が残るなか、現在の日本は新型コロナウイルスという新たな災厄に襲われている。とくに大きな負担を強いられているのが卒業式、入学式という晴れの舞台を奪われ、一斉休校で自宅待機を余儀なくされている学生たちだろう。
全国が震災直後と同じような陰鬱なムードに包まれるなか、ある教育者が学生に送ったメッセージが、いま静かな注目を浴びている。
メッセージの主は、自由学園(東京都東久留米市)で最高学部長を務める渡辺憲司氏。幼稚園から大学までの一貫教育を謳う自由学園でも、コロナウイルス対策のため3月2日から休校になった。そのメッセージは休校に入る前、同学園最高学部(大学)や女子部(中学・高校)の学生に向け、伝えられたという。
渡辺氏は震災当時、立教新座中学校・高等学校(埼玉県新座市)で「卒業式を中止した立教新座高校3年生諸君へ。」というメッセージを発して、話題を呼んだ人物だ。
〈君らを待つ大学での時間とは、いかなる時間なのか。学ぶことでも、友人を得ることでも、楽しむことでもないとしたら、何のために大学へ行くのか。
誤解を恐れずに、あえて、象徴的に云おう。
大学に行くとは、「海を見る自由」を得るためなのではないか。
言葉を換えるならば、「立ち止まる自由」を得るためではないかと思う。現実を直視する自由だと言い換えてもいい〉
〈歴史上かってない惨状が今も日本列島の多くの地域に存在する。あまりに痛ましい状況である。祝意を避けるべきではないかという意見もあろう。だが私は、いまこの時だからこそ、諸君を未来に送り出したいとも思う〉
勇気と希望に溢れたメッセージは、ツイッターなどインターネット上で拡散され、静かな感動を呼んだ。
あれから9年。渡辺氏が、新型コロナウイルスに立ち向かう若者たちに伝えられた言葉とはどのようなものなのか。本人の了解のもと、ここに全文を紹介する。
【以下、全文】
コロナ対策で今日本中が大きな試練の時にあります。
もちろん、私たちは、手洗いを始め予防対策をしっかりやらなければなりません。感染をこれ以上増やさないために、各自が冷静に、この病気に対して「正しく恐れ」なければなりません。国の対策が十分であったか、政府のとった行動に間違いがなかったのか、その検討はこれからも続けられるでしょう。より良い結果のためにも批判精神を保持することは必要です。