音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、『笑点』の司会者を長く務めた五代目三遊亭円楽の十八番で一時間はかかる大作としても知られる『浜野矩随(はまののりゆき)』を、春風亭一之輔がコンパクトながら演出に磨きをかけて2020年に披露した様子ついてお届けする。
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春風亭一之輔が今年『浜野矩随』をネタおろしした。初演は1月16日に日本橋公会堂で行なわれた桂吉坊との二人会。一之輔が『短命』で爆笑させた後、吉坊がネタ出しの『帯久』を1時間10分みっちりと演じ、休憩の後に吉坊が5分の小咄『七福神』を披露。『浜野矩随』をネタ出ししている一之輔が高座に現われたのは20時50分。「私の『浜野』はごく短いのでご安心ください」と前置きして本題に入っていく。
矩随が若狭屋に三本足の馬を彫って持ってきた。それは彫り損じではなく、腰元彫りの名人と謳われた父の作品を真似たもの。若狭屋が「矩安さんは三本足で彫っても四本に見えたんだ。お前の彫るものにはお前が出てない」と叱ると、矩随は「若狭屋さんは彫り物師ではありませんから」と、言ってはいけない台詞を吐くが、若狭屋は辛抱強く「私は道具屋に命を懸けてる。お前も命懸けでやったらどうなんだ」と説く。
「お前の彫ったものを幾ら出しても欲しいと言う人が出てこないとダメなんだ」と言う若狭屋に、矩随は「お金のために彫っているのではありません」と口答え。若狭屋は「私がいつも一分で買ってるのは金じゃないって言うのか! お前はヘタなんだ、一分持って帰れ! 二度とうちの敷居を跨ぐな」と追い返す。