アスリートを鼓舞する声援はいつ戻るのか──新型ウイルスの拡大により、ついに東京五輪でも「無観客試合」の可能性が囁かれ始めた。歓声もヤジもない試合は盛り上がりに欠けるが、実は「ファンの応援が選手の力になる」という“常識”に異を唱える学説は少なくない。一体なぜか。
◆客がいなくても強い
球場にファンの声援や鳴り物の音はなく、聞こえてくるのは球音と選手・審判の声ばかり──今年のプロ野球オープン戦は、日程途中から「無観客」という異例のかたちで行なわれた。初めての経験となる無観客試合を終えた選手たちの声は様々だった。
「あらためてファンの声援が自分たちの力になっていると考えさせられた」(巨人・菅野智之)
「歓声がない中で集中することはできたが、誰も見てくれない悲しさはあった」(ロッテ・井上晴哉)
「変な感じはする。お客さんが雰囲気を作ってくれていると感じた」(ヤクルト・青木宣親)
共通点は、「応援が力になる」という認識があることだろう。だが、実際に応援の“効果”を調べた研究を紐解くと、様々な説があることがわかった。
スポーツの無観客試合は、テロや感染症対策、災害などを理由に各国で先例がある。それらの試合を対象に分析した研究を見ると、興味深い事実が浮かび上がってくる。社会心理学などが専門の帝京大学・安部健太助教が2017年に公表した研究論文では、インフルエンザの感染拡大により、シーズン中の一部のゲームが「無観客試合」となったメキシコのサッカーリーグ(2008~2009年シーズン)を対象としている。